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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side ―あれから一週間― 同日17時 「も、もうよくない…?っていうか、勘弁して…」 「だって、初春。御坂さんが今にもダウンしそう…」 美琴の今の状態を見て、佐天が思わず苦笑い。 「ん~、正直聞き足りない気がしないでもないですけど、まぁ御坂さんの知らないとことか色々聞けたので、よしとしますか?」 「う、うだ~」 美琴と同様、上条もまた二人の質問攻めに多少なりともうんざりしていた。 あの直後の二、三の質問は大したことのない、誰にでも普通に話せるレベルのもの。 なので上条も最初が最初なだけに警戒していたが、それらを聞いてその程度ならと、気を緩めていた。 だが、やはりその程度ではこの状態の二人は留まらない。 その後は、初対面の人にはまず言わないであろうことを容赦なく二人へと投げかけていた。 それが一時間近く続けば、ただでさえこういった経験の乏しい上条がうんざりしてくるのも頷ける。 「じゃあ、今日はこれでお開きでいいかな?ってか、いいよね?」 「そうなりますねぇ」 「了解。じゃあ私は今から代金払ってくるからみんな外出て待ってて」 「「ごちそうさまでしたー」」 座っていた席を皆が立ち上がり、ファミレスの出口へと歩を進め、レジにまでくると、美琴は代金を支払うために立ち止まり、彼女を除く三人が外へと出ていく。 「えっと、上条さん。御坂さんから聞いたんですけど、上条さんは御坂さんより二つ上ですよね?」 「ん?まぁそうだけど……それがどうしたの?」 そこで、初春が立ち止まり、外にでた上条を呼び止める。 少し、申し訳なさそうな顔をして。 「それなら上条さんは今高三ですよね?それなのにこちらの勝手で受験の年の大事な時間をとらせてしまって、すいませんでした」 大きな花飾りを頭にのせた少女、初春がそう言うと、深々と頭を下げる。 そしてそれに呼応するように、彼女の隣に立っていた佐天は慌てて頭を下げた。 「…………」 だが、謝罪する彼女達に対する上条がした返事は、沈黙。 沈黙の理由は、確かに初春が言ったことはほとんど間違ってはいない。 間違っていないのだが、ただ一つ、誤りが存在した。 それは上条が今は高三ではなく、留年したためまだ高一であるということ。 なので上条は今年に受験があるわけではなく、今は高校生活において割と自由な時間が多い時と言え、別段忙しいわけでは全くない。 「え、えっと…その……」 「……?」 それは違う、自分は留年したため今は高一であって、受験もないしそんなに忙しくもない。 ……その一言が、喉元まででかかったが、出てこない。 そうなってしまった理由や過程がどうであれ、彼の自分自身の、男としての、年上としてのプライドが、そうすることを決してよしとはしていなかった。 その理由が世界にとって、世の中の人々のために行動をした結果であっても。 冗談っぽく、それこそネタのように留年したと言えれば、上条は嘘は言っておらず、しかも彼女達も恐らく半信半疑で、笑ってこの場を過ごせるかもしれない。 だが、上条の今の心情的にそれはできなかった。 それは昼の時から気にしていたことであり、悩んでいたこと。 簡単に冗談っぽく軽く受け流せるわけもなく、さらに真面目な顔で彼女の質問を聞いてしまっては、騙せるものも騙せるわけがない。 そんな戸惑う上条をよそに、今も彼の目の前の、二人の少女達は若干不思議そうな顔をしている。 彼の言わんとしようとしていることの続きが、なかなか彼の口から出てこないからだ。 「ごめん、遅くなった。お待たせー」 「ッ!?」 「あ、御坂さん。どうもありがとうございましたー」 店の勘定を済ませ、やや慌てた様子で店から姿を現した美琴に、上条はビクッと肩を揺らす。 彼女に聞かれて特にまずいような会話はしていないにしろ、ただ何故だか本能的なところでまずいと思ったからかもしれない。 「…?ちょっと、何かあったの?」 「へ?…いやいや!何もねぇよ…」 「ふーん…?ま、いいけど……それで、この後に何するか決めてたっけ?」 美琴は、集まっている場所に着いた時、少なからずの場の空気に違和感を感じた。 それが何故なのか、その場にいなかった彼女には知る由がないのだが、どこか気になった。 「いや、私達はここでお別れします。せっかくのお二人の時間でしたのに、邪魔してしまったわけですし…」 「邪魔だなんて、そんな…」 「いいですから、あたし達のことは気にせず、後はお二人でゆっくり過ごしてください」 佐天は少し戸惑う美琴を、背中を押して上条の隣まで移動させ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、 「ではあたし達はこれで、今日は色々と話を聞けて楽しかったです!」 「またお暇があればまた~」 それだけ言い残し、二人は駆け足で立ち去っていった。 駆けてゆく彼女達の背中は、美琴の目にはどこか楽しげに映った。 「またねー!……で、結局何があったの?」 「は…?いや、だから何も…」 「何があったの?」 「だから…」 「………」 美琴の言葉による追求の後は、沈黙による追求。 何か、ではなく何がと聞くあたり、美琴はほぼ確信をもって上条にものを尋ねている。 さらに言うと、美琴は先ほど感じた違和感は、上条から発せられているということも気づいていた。 あの場所に駆け寄った際の彼の微妙な反応を、見逃してはいなかった。 「……ちょっと、痛いとこをつかれただけだよ」 「痛いとこ?」 「……学年の話」 「あぁ、なるほどね…」 美琴にはそれだけで、何となく事の成り行きがわかった気がした。 今の上条にとって、学年の話は最早禁句と言えるからだ。 学校が始まる寸前で留年だと知らされて、その場では何とか説得したものの、未だに彼は留年だとということを気にしている。 大学ならいざ知らず、普通に考えれば高校で留年などほぼ有り得ない。 この一般論が、上条の心に拍車をかけているのかもしれない。 「まぁどういう流れで学年の何を聞かれたか知らないけどさ、アンタは何て答えたの?」 「……何も、答えなかった。いや、答えられなかった、かな。情けないよなぁ、俺」 どこか哀しそうな顔をして、上条は空を見上げた。 今彼は何を考えているのだろうか。 その表情が意味するところは、何なのか。 美琴は読心能力者ではない、だから彼の考えていることはわからない。 しかし、推測することはできる。 上条の性格、今までの上条の行動を顧みて、経験から何を考えているか推測することはできる。 「何考えてるか知らないけどさ、もし今の自分を卑下するようなこと考えてるんだったら、それは違うと思う。アンタには……当麻には、やるべきこと、やらないといけないと思ってたことがあったから、それをやっていた。そうでしょ?」 「あ、あぁ…」 「だから、気にするなとは言えないけど、せめてもう少し考え方を変えていった方がいいんじゃない?去年の当麻がそうだったように、今やるべきことをやればいい」 いくら上条が自分自身のことを頭が悪いからと思っているとは言え、上条は決して根っからの不真面目な性格ではない。 留年ともなれば思うところはあるだろう。 実際留年という事実を知った時は、それを明らかに気にしていたし、堪えると思う。 だから留年を気にするなとは美琴は言えない。 しかし、もう少し違う考え方があるということを提示することはできる。 だからこそ上条に、これから進むべき道を示した。 「やるべきこと……まぁ確かに、このままじゃあダメだよな…」 「そうよ、何を今更なこと言ってんのよ。大体、何もせずに何かを変えよう、変わってほしいと願うこと自体が間違ってる。それくらいわからないアンタも馬鹿じゃないでしょ?」 「……あぁ」 今まで、彼には何度となく助けられてきた。 自分自身の命さえ救われたことだってある。 きっとこれからの人生でも、何度も彼に助けられることだと思う。 だからこそ彼が道に迷った時、立ち止まってしまいそうな時は自分も彼を助けていきたい。 今の彼がそうであるように、自分が彼のためにできることだってあるのだから。 それが、自分の目指すこれからの理想の姿だから。 4月8日の朝に言ったことは、今こうして実践されている。 「わかったなら、行こっか」 「あぁ、そうだな……って待てよ?行くってどこにだ?」 「えっ?えっと……さぁ?」 「さぁ?ってお前…」 せっかく良い話をした後なのにもかかわらず、これからのスタートを切ろうという時にこれでは、美琴はちょっと先が思いやられる気がした。 ……いや、言い方はあれかもしれないが、そもそも生涯のパートナーとなりうる相手を、彼に選んだ時点でそれは見えていたことだろう。 今に始まったことではない。 「じゃ、じゃあさ!買い物!今日の夕飯の買い物行きましょ!」 「買い物?……あぁ、確かにもうそんな時間か」 上条はポケットにいれていた携帯を取り出し、時間を確認する。 携帯の時刻は17時30分を指し示していた。 「時間って、気付かない内にあっという間に経つもんだよなぁ…」 「何年寄りくさいこと言ってんのよ。それじゃ行き先も決まったし、行こ」 「お、おい!そんな引っ張るなって!」 美琴は上条の手を握りしめ、目的地であるスーパーへ向かって少し早足で歩き出す。 その彼女の少々強引とも言える行動に対して上条は、少し驚いたような表情を見せ、その後けだるそうな表情も見せたが、手を引っ張って先を行く美琴を見る目はどこか穏やか。 男として頼りないところが多々あると自覚すらしている上条にとって、彼女の存在はとても大きい。 今回がそうだったように、それがさも当然のように進むべき道に迷った時には正しい道をしっかりと指し示してくれる。 他にも、彼女には他人を思いやれる優しさ、一人でちゃんと立つことができる強さ、そして時折見せる愛らしさ。 そんな彼女にも短所はもちろんある。 しかし、短所と思っていたところの一部が愛情の裏返しとわかれば、その短所全てさえも可愛らしく思えてきた。 結局のところ、先ほど美琴の後輩達に言った通り、美琴の全てが好きなのだ。 彼女となら、どれだけ険しい道も乗り越えられる。 だから上条は、彼女に対してはどんなことがあっても揺ぎ得ない信頼と、彼女の居場所が自分の帰ってくる場所であるという安心と、今、そしてこれからも変わらないであろう愛情を抱いている。 だから上条は、彼女には自分にはない部分を補ってくれる頼もしさや感謝すら感じている。 だから、 「なぁ、美琴…」 「ん?何…?」 「――― ?」 「………え?ちょ、ちょっと、よく聞こえなかったんだけど」 前をズカズカと行く美琴に対して、上条は俯きながら呟いたのだ。 不意をつかれたような状態では、聞き取るのは恐らく困難を極めるだろう。 「…………別に、大したことねぇことだよ。あまり気にしなくていいぞ」 「はぁ?大したことないかどうかってのは私が決めることでしょう?勝手に自己完結してんじゃないわよ!」 美琴は鬼気迫るような怒気を放ち、後ろを行く上条に対して、そう怒鳴りつけた。 本当に、この短気さと怒りっぽささえなくなれば、心の底からいい女の子なのだが、と上条は内心思う。 しかし同時に、こうして怒る時に電撃を辺りにまき散らさなくなったというところを見ると、やはり彼女も変わってきたなとも思う。 さらに、彼女のその怒る調子が少し可愛く見えてくるようになったあたり、自分も変わったなと思う。 そんな可愛く見えてさえいる彼女を、まだ見ていたくて、少しいたずらっぽく、 「うるせえ!どうしても聞き出したかったら力づくでやってみやがれー!スーパーに着くまでに捕まえられたら教えてやるよ!」 そして上条は繋いでいた手を離し、ダッと一目散に走りだす。 無論、その走り去る方向は先ほど決めた目的地へ。 「な゛っ…!……オーケー、アンタがそこまで私をおちょくるというのなら、アンタを捕まえた後、お望み通りけちょんけちょんに叩きのめして、力づくで意地でも聞き出してやるわよ!!」 「ん…?どわっ!!ばっ、お前っ!能力を使うのはずるいんじゃねえの!?」 上条が走るそのすぐ横を、普通の人間ならばそれでイチコロであろう雷撃の槍が飛来した。 それは遠慮も躊躇いもほとんど感じられない、無慈悲なる一撃。 「うるさい!!全ての元凶はアンタでしょうが!!自分の言ったことくらいは責任とりなさい!!」 「だからって、限度があるだろうが!!」 目的地に向かいつつ、二人は追いかけあう。 こうして美琴が上条を追いかけまわすのはいつぶりだろうか。 少なくとも付き合うようになってからはしていないだろう。 こういうことは、今という日々が平和だからこそできる。 これといった事件もなく、二人が自然な自分でいられる時。 一昔前のように、互いが互いを追いかけて、笑いあえる。 多少上条の身に危険が訪れるが、それはご愛嬌。 「待てやこのヤロー!!」 「お前!女の子なんだからもっとお淑やかなことを言えな……どわっ!!」 「うるさいって言ってるでしょうがぁ!!!」 日も沈みかけ、今日という一日が終わろうという時、二人の追いかけっこ(バトルロワイヤル)が始まる。 同日19時、帰り道 「……本当に、逃げ足だけは一級品よね、アンタは」 「そいつはどうも。お前も、よくあんな攻撃を人に対して、それも愛しい愛しい恋人の俺に向かってげふっ!」 上条の下顎から上向きに、美琴きれいなアッパーカットが炸裂。 やはり、その一撃にも容赦はない。 「やっぱり力づくでってのは今も継続でいいかしら?いいわよね?よしわかった」 「お、おまっ、舌噛んだらどうすんだよ!」 「カエル先生に差し出す」 「……迅速かつ適切な処置をありがとうございます。……はぁ、不幸だ…」 美琴のお世辞にも優しいとは言えない返答を即答で聞いて、上条はため息と決まり文句を吐き出した。 もう少し、そうならないような危険な攻撃をしないなどの慈愛に溢れた選択肢は存在しないのか、などと上条は内心呟くが、残念ながら怒った彼女にそんなことは期待できない。 「それで結局、アンタがあの時言ったことって一体何だったのよ?」 「……お前、さっきの勝負負けたじゃねぇか」 「うっ…」 結果だけを言うと、先の追いかけっこは上条が辛くも勝利し、美琴からの仕打ちを受けることはなかった。 いくら美琴が人並み以上の身体能力の持ち主でもやはり女の子。 腐っても男、それも体力と耐久力には自信を持っている上条には、少々分が悪かった。 そして二人の追いかけっこはつつがなく終幕を迎え、今は買い物も終えた二人は上条の学生寮へと向かっている最中である。 なので、上条の薄っぺらい学生鞄を持つ右手とは逆の方の手には、スーパーで買った食材が入っているビニール袋が握られている。 「そ、それでも、気になるもんは気になるだもん…」 「はいはい、そういうことはちゃんと勝負に勝ってから言いましょうね」 「うぅっ……当麻のばか…」 言い返しようもない上条の返答に、美琴はぐぅの音もでない。 その反論もできない状況が嫌で、美琴は頬を膨らませ、あからさまな怒りを装うが、上条はそれに対しては特にこれといったアクションは示さない。 上条当麻のスルースキルはこんな時にも役だったりするのだ。 「はぁ……じゃあもういいわよ。そのことは今はもう聞かない!すごく、すっごく、すっっっっごく聞きたいけど、今はもう聞かない!」 「…………」 暗に、というよりむしろあからさまにまだまだ興味は尽きないということを示す美琴を、上条は若干白い目で見やる。 もちろん彼女は言葉通り、このことに関して諦めたわけではない。 それはあくまでも今は、であり、また後日に聞き出してやるという固い決心の表れでもあった。 「そうだな……いつか、またいつか、その時になったら言ってやるよ」 「えっ?じゃあ今がその時だから教えなさいよ」 「お前な……ついほんの数秒前に今はもう聞かないって言ったばっかりじゃねぇか!?お前の頭は鶏以下か!」 「乙女は時としてきまぐれなのよ~」 乙女、つくづくよくわからない生き物だと上条は心から思う。 今まで何度その言葉に振り回されてきたか。 字にするとたった二文字にしかならないその生き物は、自分と同じ人間という生き物のはずなのに、それよりも不可思議で、計り知れないほどの秘密が隠されているように思えた。 「……そうですか…はぁ……それと、いつかはいつかだ。今日じゃないいつかだよ」 「そんなこと言ってたらなかったことにされそうで怖いんだけど」 「ん……まぁそれもまた一興だな」 「はぁ?ふざけんじゃないわよ!」 美琴の周りにバチバチと不穏な音をたてはじめるが、それは即座に上条によって打ち消される。 幻想殺し、彼の右腕に宿る能力で、先ほどの追いかけっこで無事に生きていられたのはこの能力のおかげだ。 「はははっ、冗談だって。それに、それは多分ないから心配すんなって」 「えっ?ちょっとそれどういう…?」 「ちゃんとその時になったらわかるよ」 上条は美琴がいる方とはまた違う方へ視線を向け、その表情からは少し真剣さ、しかしどこか優しささえ感じとれる。 これは何かある。 今彼が隠していることを上条は大したことないなどとのたまうが、きっと重要な何かを秘めている。 美琴は上条の横顔を見て、ある種の確信を得た。 だからはっきり言ってとても気になった。 彼の言うところの“いつか”を待たずして、自分が先ほど口走ったことを撤回して、小一時間彼を問いただしてやろうかと思った。 それをしてもいいと思えるほど、彼が隠していることは自分にとっても重要なことなのだと、彼が喋ったわけでもないのに、何故だか断言できる。 しかし… 「……ちゃんと言いなさいよね、約束よ」 そこで、一歩踏みとどまった。 よほど重要なことなのだ、それに彼も忘れないと言っている。 その彼を信じて、理性は彼が話してくれるのを待つという決断を下した。 それだけ言うと、美琴は女の子らしい小さい右手の中で、さらに小さい小指を上条に差し出した。 それでも、やはり万が一のことがある。 だから、かつてのペンダントの一生の誓いとはまた違う、形には残らないが、一つの形にした“いつか”までの一時的な誓いを、今一度今ここで彼と契る。 言わずもがな、美琴がやろうとしているのは約束をするときの定番となっている指切りである。 それを見て、上条は呆れたように小さくため息をつくが、やがて向き直り、 「あぁ…」 少し無愛想、だけどその素っ気ない返答の中にも感じられる彼の優しさを美琴は感じながら、上条もまた差し出された右手に応じて、一度右手で持っていた学生鞄を地面に置き、右手の人差し指を彼女に差し出した。 今ここで、二人の小指は交差し、固く結ばれる。 形には残らないけども、保険として一つの形で表したある種の誓い。 結ばれるのを確認すると、美琴は指切りの時によく歌われる歌を口ずさむ。 無論、それはもし嘘をついたら針千本飲ますという歌。 「……よし、嘘だったら本当に針千本飲ますからね」 「お前、針千本も持ってるかよ?」 「もちろんそんなの今は無いけど、必要な時になれば買うわよ?」 半ば冗談にも聞こえる内容だが、美琴の目は笑ってない。 普段の振る舞いからして忘れさられがちではあるが、彼女は正真正銘のお嬢様。 それも超能力者として、学園都市からかなりの額の報酬金を受け取っている。 そんな彼女だからこそ、虚勢やはったりなどではなく、本気でやりかねない。 そう思うと、言い終えてからずっと何故だかずっと笑顔でいる彼女に、戦慄を覚えた。 針千本を飲む、いくら数多の死線をくぐり抜け、今でも奇跡的に生きていると言っても過言ではない上条とて、そんなことをすれば確実に死ぬだろう。 「…………不幸だ」 「嫌ならちゃんと約束を守ればいいのよ」 小さくため息をつき、がっくりとうなだれる上条に、美琴は一言声をかける。 そう、約束を守ればそんなことをしなくても済む。 そして上条もまた約束はちゃんと守るつもりではいる。 しかしこういうことは、そういう約束を取り付けられただけでも怖いものなのだ。 さらに彼が歩んできた不幸な人生の経験上、わかってはいても最悪の場合ばかりを考えてしまう。 本当に針千本飲まされる気がしてならない。 もう一度、小さくため息。 「……まぁいいや、時間も時間だしもう早く帰ろうぜ。上条さん腹減っちまったよ…」 それを示すかのように、上条は買い物袋を持ってない右手で自分の腹をさする。 「ああはいはいじゃあ早く帰りましょ。……と言うか、話をこじらせて帰りを遅くさせたのはアンタじゃない」 「……それなら無理に追求してきたお前にも……っと、まぁ一応悪かったよ。ほれ、もう行くぞ」 「……?ってちょ、ちょっと!」 上条は少しバツが悪そうな表情を見せると、スーパーの袋を持っていた左手で地面に置いた学生鞄を拾い、空いた右手で美琴の手を掴み、歩く速さを少し速めた。 突然のことで手を掴まれた瞬間は少し驚き、ドキッとした美琴だったが、それも束の間。 手を繋ぐのは最早日常茶飯事と言ってもいいほどに繋いできた。 それほど適応力がない彼女ではない。 手を握られ、先導される嬉しさこそまだ残るものの、早くなった鼓動は少しずつ落ち着いていった。 しかしいつもよりもどこか頼もしく大きく感じられる彼の背中には、何とも言えない安心感を覚えた。 嘗てから頼れるところはあったが、それ以外のことは不器用で、まだまだ頼りないところも多々あったいつしかの彼の面影は、今の背中からはあまり感じられない。 今日という一日で彼の中で何かあったのかもしれない。 少なくとも昨日の内には今みたいな感想は持ってなかったと思われる。 美琴は試しに先を歩く彼に駆け寄り、隣にまで行くと上条の目をちらりと覗き見る。 (……?) 人の目をよく観察してみれば、その人についてよくわかるとは言うが、彼の目には少なからずの決意らしきものを感じた。 やはり、恐らく何かあったのだろう。 確実に昨日までにはなかった光が彼の目には映っている。 今日という一日に彼を変える転機となるほどの出来事があっただろうか。 美琴は頭の中で今日という一日をざっと振り返るが、それほど大きいことはなかったように思える。 では一体何が彼に少なからずの変化を与えたのか。 それを探そうと、美琴は自慢の頭脳を駆使して、必死に今日の記憶遡ってゆく。 様々なことが起きた今日という一日を。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Love is blind 第6話 不幸と幸福と漏電 「ど、どうしよう…」 フランクフルト屋の側のベンチで、上条は困っていた。 別に魔術師や科学者からの襲撃を受けたわけではない。 美琴と抱き合っていたせいで、周囲に大勢のギャラリーが集まって来てしまったことでもない。 彼が困っているのは、目の前で突然倒れた御坂美琴が原因だった。 (な、なんで倒れたんだ?俺は何もしてないし…まさか魔術師の攻撃か!?……でも御坂を狙う理由なんてないよな……) なぜ美琴は突然倒れたのか。 魔術か、それとも科学の能力か、はたまた何かの病気なのか。 気絶した美琴を抱え、必死に考えるも答えはでなかった。 ……本当のところ、上条に抱きしめられられ付き合えたと勘違いし、嬉しさのあまり気絶したのだが、上条にわかるわけがなかった。 焦る上条が次にとった行動は (えーと、こういう場合は……そうだ救急車!!) たとえ魔術の特殊攻撃であろうと、たとえ敵の攻撃ではなかったとしても、美琴に何かが起こっていることだけは確かなのだ。 ということは病院に運んだ方が、診察もしてもらえるし安心できる。 それに、こんなところで大好きな彼女を失うわけにはいかない。 上条は手に持っていた携帯を開き、電話をかけようとしたのだが (………救急車って…何番だ?ていうか漏電してるっぽいから車に乗せられないんじゃないか?い、一体どうすれば…) 今は右手で触れているため、美琴は普通に眠っているように見えるが、先ほど一瞬手を離したらかなり強い電気が漏れていた。 これではとてもじゃないが、車に乗せることなんてできるわけがない。 そんなわけで上条がオロオロしていると、 「むにゃ……えへへ…」 頬をリンゴ色に染めた美琴が、呟いた。 いや、正確には『寝言』と言った方が正しい。 表情は緩みきっており、なんだかものすごく幸せそうな美琴は、ギュッと上条にしがみついてきた。 とりあえず言えることは“可愛い”。 そんな美琴を見た上条は、ある考えに辿り着いた。 「………ん?ひょっとして…寝てるだけ…?」 しがみついてきている美琴に、苦しんでいる様子は全く見られない。 それどころか、スースーと寝息をたてている。 (なんだ寝てるだけかよ……てことはそんな深刻な状態じゃないってことか。……よ、よかった…) これで一安心。 美琴に異常なことが起こっていないとわかり、上条は安堵の表情を見せた。 しかし、安心したのも束の間。 「ちょっと御坂さんじゃない!?」 「え?」 人だかりの後ろから女の人の声がした。 聞いたことがある…ような気がしたり、しなかったりする。 (この声……誰だ?それに御坂を知ってるんだよな。俺と話したことがない人じゃないとまずいんだけど…) もし話したことがある人であれば、こんな状況でにもかかわらず好きだと言われることは間違いなく、面倒なことになるだろう。 そして人だかりの向こうから現れたのは、腕に風紀委員の腕章をつけた女性。 残念なことに、上条はその人と話したことがあった。 「あ…こ、固法さん…」 「上条さん!御坂さん気を失ってるみたいだけどどうしたの?まさか事件に巻き込まれたの?」 現れた女性とは風紀委員第177支部に所属する女子高校生、固法美偉だ。 上条は以前美琴つながりで固法と会い、話したことが何度かある。 それはつまり、増強剤の影響を受ける条件を満たしているということ。 (ヤバい、またしてもヤバいぞ…今にも好きだとか言われるんじゃ……) 固法は普段なら、かなり頼りになるが今は話が違う。 この場で告白なんてされれば、美琴を抱えて逃げることなどできないので、ジ・エンド。 上条は美琴を抱えたまま、固法からジリジリと後ずさる。 そんな上条に固法が 「?どうしたの上条さん……まさか御坂さんを気絶させたのって、上条さんなの…?」 「……あれ?」 固法は上条に惚れる様子を見せるどころか、上条に敵意さえ見せ始めた。 それを見た上条は少し考える。 (…どうみても俺に惚れてないよな。てことは……まさか固法さんって好きな人いるのか?だとしたらこれはチャンス!!) 固法に好きな人がいる、というのは少し予想外であったが、何にせよ助かった。 なんたってやっかいな増強剤の影響を受けないのだから。 こうして固法が正常だと確信した上条は、 「いや違いますよ? 俺が何かしたんじゃなくて急に倒れたんですよ。それになぜか漏電してるから右手を離せなくて…だから救急車も呼んでも乗せられないから困ってたんです。」 そう固法に説明した。 実際は抱きしめていたのだが、それを言うと話がややこしくなるので省くことにしたのだが、特に問題はないだろう。 上条の説明を聞いた固法は、 「あ…そうだったの。変な態度するから、てっきり上条さんが何かしたのかと思ったちゃったわ…」 「いや気にしないでください。それより御坂を運んだ方がいいと思うんですけど…どこに運べば………」 「あ、そ、そうね。えーと……177支部に行きましょうか。」 「はい、じゃあ運び……………!!」 上条は気づいた。 177支部へ行く、ということは車無しで気絶した美琴を運ぶということ。 それはつまり…… (……御坂をおんぶするってことなんじゃ!?) なんという素敵イベント。 固法に運ばせるわけにはいかないし、どう考えても他の方法もないので、必然的に上条が美琴をおぶることになるのだ。 上条は固法に見えないよう、ガッツポーズをした。 「えーと…御坂さんをどうやって…あ、タクシーでも…」 「あ!いや!!お、俺が!俺がおんぶします!しますから大丈夫です!!マジで!!」 上条は必死だった。 「そ、そう。じゃあお願いしようかしら?」 「よし!!さて……よっと。」 「大丈夫?じゃあ行きましょうか。」 上条は気絶している美琴をおんぶし、固法と並んで風紀委員の支部へ向け歩き始めた。 振動で起きないかが心配だったが、美琴は上条の背中で気持ちよよさそうに眠っており、今のところ起きる気配はない。 (ああ…御坂をおんぶできるなんて……幸せだ…) 背中の美琴の感触や体温、匂いなど、美琴好きの上条にとってはたまらなく、ついつい顔が緩んでしまう。 今日はなんといい日なのだろうか。 美琴を抱きしめることはできしたし、おんぶもできたし、女の子に追いかけられた出来事が霞むくらいいいことが起こった。 おんぶもいいけどもう一回抱きしめたいなー、とか上条が考えていると 「上条さん?」 「は、はい!なんでせう?」 「改めて言わせてもらうけど…さっきはごめんさないね…疑っちゃって…」 隣を歩く固法は視線を下に落とし、申し訳なさそうな表情を浮かべている。 そうやらさっきのことをかなり気にしているようだ。 「そんなの気にしなくていいですよ。全く気にしてませんから。」 「でも…」 「いいですって。それより今日も風紀委員の仕事ですか?」 「え、ええ、そうなのよ。今第7学区に妙な男子学生が出没していて、多くの風紀委員が駆り出されてるのよ。」 「…男子学生…?まさかとは思いますが、その学生って髪の毛が青くて耳にピアスしてるとか…?」 非常に嫌な予感がした上条はおそるおそる尋ねてみた。 上条の言う、“髪の毛が青くて耳にピアスしてる学生”とは、もちろん青髪ピアスのことだ。 できれば違ってほしいと思っていたが、固法は驚いた表情を見せ 「なんで知ってるの?まだ言ってないのに…」 「え…ま、まさか本当に?」 「ええ。私たち風紀委員は青い髪の高校生を捜しているのよ。ひょっとして、上条さん何か知ってるの?」 「い、いや別に…」 間違いない、風紀委員が探しているというのは、増強剤で暴走した青髪ピアスだ。 上条の顔はサーッ青くなり、心拍数が跳ね上がった。 ぶっちゃけ上条も、いくら青髪ピアスが増強剤の効果により変態が強化されたといっても、そこまで問題はないと思っていた。 だから特に青ピを探さずに美琴をメインに探していたのだ。 「そ、それで…被害は…?」 上条は再びおそるおそる固法に被害状況を尋ねた。 もし青髪ピアスが女の子たちに危害を加えていた場合、停学はもちろん、最悪退学になりかねない。 頼むから何もしていないでくれと、願っていると 「被害?女の子達は被害になんて遭ってないわよ?」 「へ?」 固法の口から出たのは予想外の答えだった。 「被害に遭っていない…?」 「ええ、むしろ逆よ。青い髪の学生は第7学区内の女の子たちを助けて回ってるの。だから是非ともお礼を言いたくて探してるわけなの。」 「えー…そ、そうなんですか……」 上条は青髪ピアスの予想外過ぎる行動に驚きを隠せない。 (青ピが人助け……変態が増強されたんじゃないのか?…いや、あれは土御門の予想だから別の何かが増強されたのか。) だとすれば何が増強されたのか、上条が考えていると 「んん…」 「!?」 背中の美琴が小さく声を出した。 さらにちょっと動いた気がする。 (ま、まさかもう起きたのか!?頼むって、おい…もう少し眠ったままでいてくれよ…) 美琴が起きれば、当然自分の足で歩くことになり、おんぶできなくなる。 しかし… 「えへー……むにゃ…とーまぁ…」 「な…ッ!」 どうやらまだ眠っているらしい。 耳元で聞こえる美琴の可愛らしい寝言、美琴大好きの上条にとってはたまらない。 (何この可愛い御坂、結婚したい。ていうか夢に俺が出てきてるのか……どんな夢なんだろ…) 青ピのことなど頭の中から消え去り、できれば2人でいちゃいちゃしてる夢がいいなー、と考える上条だった。 そんなかんじで歩くこと約10分、風紀委員第177支部に到着。 ちゃんと室内に女の子がいないと確認をとってから中へと入り、美琴をそっとソファへと寝かせた。 背中から降ろすとき名残惜しいと思ったのは内緒だ。 「もう漏電してないみたいね。それに病院へ運ぶほどひどい症状じゃないみたいだから、しばらくここに寝かせておこうかしら。」 「そうですね。御坂もそのほうがいいと思います。」 「じゃあ私飲み物入れてくるから、ちょっと待っててね。」 「あ、どうもすみません。……さて、御坂の寝顔を堪能しますか…ん?電話か?」 唐突に鳴った着信音、上条はポケットから携帯を取り出してみると 「土御門か……まさか元に戻す方法がわかったのか!?」 だとすればありがたい。 もう女の子に追いかけ回されるのは勘弁してもらいたいし、体力と気力がもつかどうかが怪しい。 上条はすぐに通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。 「土御門?何かわk」 『おーう上やん!元気にモテてるか!』 「なんか腹立つ。で、何のようだ?嫌み言うために電話かけてきたわけじゃないだろうな。」 『ああ、もちろん違うぜい。治し方がわかったんだにゃー。』 「ッ!!マジか!」 上条は歓喜した。 これで全てが元に戻る。 女の子達はみんな今日あったことを忘れ、改めて美琴に告白することができる。 それで振られても、上条は悔いないだろう。 まあ絶対振られないけど。 「で、どうやったら治るんだ?」 『ああ。解毒剤ってのを作ったんだにゃー。だから上やん、俺の寮に取りにこい。』 「解毒薬……“毒”っていうことにちょっと引っかかるな…」 それにそんなもんで治るもんなのか、少し疑いはあるものの、今は土御門を信じるしかない。 早速取りに行こうと思ったのだが、立ち上がろうとしたところで1つ考えが浮かんだ。 「……あのさ、こっちに持って来るのって、無理?」 『え?いやーそれは…』 「頼むって!俺がそっちに移動すると絶対ヤバいことがおきるからさ!」 と、言うのは立て前で、本音はこの場で美琴と一緒にいたいからである。 しかし、土御門の声がなかなか返ってこない。 電話の向こうでどうするべきか考えているのだろうか。 そして沈黙が続くこと約20秒。 『よし!わかったぜよ。今回は俺にも非があるからな、持って行ってやるんだにゃー。』 「おお!助かる!じゃ、そっちの携帯に俺の居場所を送っておくから、頼んだぞ!!」 『了解だにゃー。』 そして土御門との通話は終了、想像以上に自分の思い通りの展開となった。 「いやー、土御門のやつ聞き分けよかったな。……何か企んでるんじゃ………ってそれはないよな。よし、アイツが来るまで御坂の寝顔を…」 上条は携帯をポケットにしまい、ソファで眠る美琴に視線を移す。 やはり可愛い、その一言に尽きる。 (………あ!写真とって待ち受けにしよう!!) 名案だと上条は思った。 ここで写真を撮っておけば、携帯でいつでも美琴を鑑賞できる。 固法がまだ戻ってこないことを確認してから、上条は携帯をかまえた。 が、ここで上条に不幸が襲いかかる。 「固法先ぱーい!例の青髪の学生発見しました!ていうか佐天さんが…」 「こんにちはー!!あの、あたし学校の友達と遊んでたら不良にからまれて、そこを偶然青髪の人に助けてもらっちゃった……って、上条さん!?」 「…マジかよ……」 上条に安息が訪れる時はないのだろうか。 勢いよくドアが開くと共に、美琴の友人である初春飾利と佐天涙子が入って来た。 いや、“入って来てしまった”と、言った方が正しいかもしれない。 2人と目が合った上条はその場で停止。 上条はこの2人とも知り合いになり、話したことがあるため、増強剤の影響を受ける可能性がある。 が、しかし、それはあくまで“可能性”だ。 (まだだ。まだこの2人に好きな子がいるって可能性が残されてる。頼むからいつも通りであってくれよ…) 上条は2人に好きな人がいるという可能性に賭け、イスに座ったまま2人の反応を待った。 小学生なら話は別だが、2人は中学生なのだから好きな男の子がいてもおかしくない。 その結果は… 「上条さん…あのー、今暇ですか?もしよければパフェ食べに行きませんか?私美味しいお店知ってるんですよ!」 「あ、ちょっと初春!抜け駆けはずるいって!上条さん私と買い物行きましょうよ!」 「ははっ……そうだよな…人生そう上手くいくわけないよな…」 上条へ詰め寄る2人の女子中学生。 完全に『増強剤』の影響を受け、上条に惚れ込んでいる。 「あの、上条s」 「逃げるが勝ち!!」 上条は半分泣きながら逃げるように、というか逃げるために第177支部から飛び出した。 「もっと御坂と一緒にいたかったのに…不幸だぁー!!!!!」 ♢ ♢ ♢ 「いやーお腹いっぱい!後はとうまを探すだけかも!」 お腹をさすりながら、そんなことをいうのは、大食いシスターインデックス。 食料確保と上条を探すため、上条の部屋を出て町に来ていた彼女は よく飲食店でやっている『餃子100個食べたら1万円!ただし食べられなかったら5000円お支払い』というやつである。 おかげで元からあった千円を使うどころか、今インデックスの手元には5万円という大金があった。 「お金ってこうやって手に入れるものだったんだ……ん?あれは…とうま?」 インデックスが見たもの。 それはものすごい勢いで走る上条と、追いかける2人の女の子だった。 「……ちょっと待つんだよ!とうまー!!」 ♢ ♢ ♢ 「はぁー…全然見つからない…」 と、ため息まじりに独り言を言うのは、天草式十字凄教の五和だ。 名も知らない青い髪の少年(青髪ピアス)に助けられてから約1時間、上条のこと探し続けるも、見つけることはできていなかった。 「もー…これじゃ抜け出して来た意味が…ん?」 「かっみじょーさーん!私とデートしましょーよー!」 「待つんだよー!とうまー!」 上条を追いかけているのは3人の少女。 そのうちの1人は知っている。 イギリス清教のインデックス、上条との同居人である。 しかし、他の2人は見たことが無い。 ということは… 「あ、新しいライバルが……ちょっと待ってくださーい!!」 ♢ ♢ ♢ 一方、こちらは上条のクラスメイトである姫神愛沙。 「おかしい。絶対おかしい。」 第7学区の路上に設置されているベンチに座り、姫神は意味ありげに呟く。 彼女は教室内で担任の小萌と、クラスメイトの吹寄が相次いで上条に告白するという異常事態を目の当たりにしていた。 それだけにとどまらず、小萌も吹寄も上条を追って学校を飛び出して行ってしまったのだから、何かが起こっていることは間違いない。 そう考えた姫神は、恐らくこの事件に絡んでいるであろう上条に会うため、放課後町を散策していたのだが、五和やインデックスと同様に上条に出会うことができず、今は休憩の最中だった。 「絶対に何か起こっている。だから上条君に会いたいのだけど……なぜだろう。会える気がしない。」 何かと上条と縁の薄い姫神、諦めモードになりかけていた時だった。 「上条さーん!待ってくださーい!」 「とうまー!話があるんだよー!」 姫神のすぐ後ろから聞こえてきたのは、聞き覚えのある声、そして名前。 「え?上条。当麻?」 姫神が振り返ると、そこには逃げる上条と追いかける4人の女の子の姿があった。 そんな光景を目にしたら、することは一つ。 「……追いかけよう。」 ♢ ♢ ♢ 場面は戻って、ここは風紀委員第177支部。 上条が逃げ出してから30分近くが経っており、今室内には3つの人影があった。 一人は風紀委員177支部支部所属の固法。まあここにいて当たり前である。 もう一人は上条の呼び出されわざわざやってきた土御門。 そしてもう一人は、晴れて上条の彼女になることができたと思い込んでいる美琴なのだが、他の2人に対して深々を頭を下げている。 なぜ美琴が頭を下げているのかというと 「本当にすみませんでした!!」 2人に謝罪をするためだった。 美琴は本当に申し訳なさそうに、固法と土御門にただひたすら謝り続ける。 もちろんのことだが、美琴が固法と土御門に謝るのには、ちゃんとした理由がある。 その理由とは 「いやそんな謝らなくても別にいいぜよ。…まあ目を覚ましていきなり漏電したのはびっくりしたけど……」 「す、すみません!ほんとにすみません!!」 美琴の口から出てくるのは、謝罪の言葉のみ。 自分が漏電してしまったため、固法と舞夏のお義兄さんを危険な目に遭わせてしまった。 そのことが申し訳なくて仕方が無かったのだ。 謝ることを止めない美琴に、漏電が怖いためか少し距離をおいている固法が 「土御門さんも言ってるけどそんな謝らなくていいわよ。それより、なんで起きていきなり漏電なんてしたの?」 「そ、それは…まあいろいろあったんです……」 言えない。 本当のことなど、絶対に他人に言うわけにいかない。 (アイツと付き合えたことが嬉し過ぎたからなんて…言えないわよ!) 美琴の勘違いは続く。 本当のところ、上条は美琴が増強剤の影響を受け、告白してきたと思っているのだが、美琴は上条が告白を受け止めてくれた、と思い込んでいるのだ。 まあ実際のところ両想いなので、問題はないと言えば問題ない。多分。 それにしても、今改めて思い出してみても、あの時の幸福感はヤバい。 名前で呼ばれ、抱きしめられ、“好きだ”と言われる。 それを上条にしてもらえたのだから、美琴には『今世界で1番幸せな女の子』だという自身があった。 で、いつの間にか反省モードから妄想モードに切り替わっていた美琴は (えへへへ……私がアイツの彼女……って、や、やば…顔に出てるかな。ていうかまだ抱きしめられてる感触が残って……あれ?そういえば…アイツは…?) 今になってようやく気づいた。 上条は一体どこに行ったのだろうか? 改めて室内をきょろきょろと見回すが、彼の姿は無い。 (……あれ?目が覚めてからずっと漏電してたからわかんなかったけど……そういえばここにいないんじゃない?) もう一度見回してみる。が、やはりいない。 じゃあどこに行ったんだ、と思っていると 「どうしたの御坂さん。急にきょろきょろしだして。」 「あ、あの…アイツ知りませんか?私気を失う前にアイツと会ってたんですけど…」 「“アイツ”って上条さんのこと?上条さんなら御坂さんをここまで運んでくれたんだけど、その後すぐに出て行ったわよ?」 と、固法の答えを聞いた美琴が一番に考えたことは (あ、アイツが運んでくれたんだ……なんか嬉しいな…) ささいなことでも、幸せな気分になる美琴だった。 しかし、今大切なことは上条に運んでもらったことではない。 「あの、出て行ったって…なんでですか?」 「えーと…そうだ。初春さんと佐天さんが入ってきたんだけど、なぜか上条さんは2人に追いかけられて出て行ったのよ。」 「「あ…」」 美琴と土御門は同時に声を出した。 2人は固法の話を聞いて瞬時に理解していた。 上条は薬の影響を受けた初春と佐天に言いよられ、ここから逃げ出したのだと。 (てことは、今にも初春さんと佐天さんがアイツに……は、早く探さなきゃ!!) 予想外の事態に、美琴は慌てて支部から飛び出そうとしたのだが、 「ちょっと待つぜよ!」 「わっ!」 急に土御門に腕を掴まれた。 急いでいるのに一体なんだ、と美琴は不機嫌そうに振り返り 「なんですか?あの、私急用を思い出したんですけど…」 急用=上条を探しに行くこと。 とにかく、美琴は一刻も早く上条を探しに行きたかった。 しかしそんなことはバレバレなわけで… 「いや急用って、どうせ上やんを探しに行くだけだろ?」 「な…!!そ、そんなわけないじゃないですか!私は別にアイツのことなんて…ただちょっと用事があるだけで……」 ここできても美琴は素直ではなかった。 土御門と目を合わせないようにして、バレバレのいいわけをする。 そんな美琴を見た土御門はうんざりとした様子でため息をつき、 「…まあその話は置いておいて…上やんにこれを届けてほしいんだにゃー。ほい。」 「これ……なんですか?」 美琴が土御門より手渡された物。 それは液体の入った小さなビンだった。 その高さ5センチ、直径2センチほどの小ビンには手書きの読みづらい文字が書かれたラベルが張られている。 その文字を美琴は読んでみると 「『ANTIDOTE-解毒剤-』…?何の?」 「だから上やんが飲んだ増強剤の解毒剤ぜよ。それを上やんに飲ませれば、すぐに元通りになるんだにゃー。」 「え!?ほんとですか!?」 「もちろんだにゃー。俺はウソは言わないぜい。」 「これが……アイツが元に戻る薬…」 土御門の台詞に美琴は目を輝かせた。 彼の言葉が本当なら、これを上条に飲ますだけで全てが解決し、正式に上条との交際がスタートする。 なんて素敵なアイテムを持って来てくれたんだ、と美琴は土御門に心底感謝した。 「て、ことで、俺はもう上やんを探すのは嫌だし、代わりに頼むぜよ。」 「あ、はい!任せてください!!」 「よし。じゃあよろしく。あ、それからこれ。解毒剤の説明書だにゃー。今急いでるなら、上やんに飲ませる直前にでも読んでくれ。」 「わかりました!」 美琴は元気よく返事をした。 そして絶対になくさないよう、解毒薬と取扱説明書をカバンの中にしまい、ドアノブに手をかける。 「じゃあ失礼します!固法先輩もありがとうございました!!」 「お礼なんていいわよ。それより頑張ってね?」 「はい!!」 美琴は元気よく、支部から飛び出していった。もう2人に上条を探しに行くことを隠してすらいない。 もうすぐ全てが解決する、そう思うと足取りは軽かった。 ♢ ♢ ♢ そして美琴の後に177支部を後にした土御門は、 「舞夏ー!おまたせだにゃー。」 「おー、やっと出て来たかー!で、どうだったんだー?」 「いやー……これはもっと面白そうなことになるぜよ。あ、超電磁砲にはバレてないか?」 「それなら大丈夫だぞー。見えないところに隠れてたからなー。」 「よし、なら大丈夫だな。さて……上やんと超電磁砲を追うぜよ。」 やっぱり土御門は土御門。 支部の外で待機していた義理の妹である舞夏と共に、今日も元気に悪巧みをするのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Love is blind
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/恋する美琴の恋愛事情 修羅場美琴の告白事情 「不幸だ……」 いつものようにお決まりの台詞を呟きながら、上条当麻は己が立場を呪うしかなかった。 「トウマ、トウマ。色んなオカズが沢山あるんだよ!これほど豪華なお弁当は初めてなんだよ!!」 隣に座るインデックスはそんな当麻の心情に気付くことなく目の前のお弁当に心奪われはしゃいでいる。 そう、目の前には和洋中幾種もの色とりどりのオカズが入ったお弁当が拡げられていた。 「日本人なら和の心。誰かの為にお弁当を作ったのは初めて。上条君、食べてくれる?」 「医食同源。中華には食事にも健康に気を配るという非常にありがたい心構えがある。上条当麻、心して食べるように」 「べ、別にアンタの為に作ったわけじゃないけど、せっかく作ったのに食べないともったいないでしょ。アンタもボーっとしてないで食べなさいよ」 そして、上条当麻の目の前にはまるで『私の弁当を食べないとわかってるわよね?』とでも言いたげな視線で睨みつけてくる3人の美少女がいた。 一人一人がそれぞれの美しさを持つ美少女であり、それぞれが確固たる意志を持った瞳で当麻を睨みつける。 「おかしい」と、当麻は首を傾げるしかなかった。昨日まで3人が3人とも嬉しそうにしていたはずだ。それなのに、どうして自分はまるで釜茹でされる直前の石川五右衛門のような気持ちにならなければいけないのか、当麻には全くもって理解不能だった。 「どうしてこうなった……」 白洲に座る罪人の如くその身体を委縮させながら、当麻はここに至る過程を思い出していた。 ******** 「……遊園地?」 御坂美琴は上条当麻の台詞に意外そうな表情で聞き直した。 「そ、今度新しく出来た室内型遊園設備への招待状ですよ」 そう言って自慢気に2枚のチケットを見せつける。確かにチケットには今度新しく開園する室内型遊園地の招待券と書いてあった。 いつものように学校の帰りに本来の通学路からは遠回りして、いつもの公園で上条当麻と会っていた美琴だったが、「そういえば」と当麻が取りだしてきたのがこのチケットだった。 「で、それを誰と行くのよ?」 自慢気に見せつけるそれを見ながらなんとなく不機嫌になる美琴。2枚のチケットのうち1枚は当麻が使用するとしてもう一枚の行方が気になる。まあどうせあのちびっこシスターなんだろうと予想が付いてしまうだけにどす黒い感情が表面化しそうになってしまう。 「ん、そんなの御坂に決まってるだろ」 しかし、予想外の台詞に美琴の心拍数が跳ね上がる。 「いやあ、小萌先生からこのチケットを貰った時はどうしようかと思いましたが、普段お世話になっている人へのお返しをしなさいと言われて、やっぱ御坂にも渡さないとなと思ったわけですよ」 「へ、へえ……」 なにか重要な事を言ったような気がしたが、すでに美琴の心拍数は跳ね上がり、血圧は上昇、まともな思考は働いていない。 「御坂を誘うなら白井とかも誘うべきなんだろうが、枚数的に御坂一人になっちまうのは申し訳なかったけどな」 「う、ううん!大丈夫よ!黒子の事なら問題ないから!!あの子はうん。全然まったく関係ないから!!」 もし白井黒子が聞いていたらショックのあまり卒倒するような台詞を吐くあたり美琴のテンパリ具合が尋常ではないのが見て取れる。当麻は当麻でいつもの如く超鈍感ぶりを発揮し、美琴が喜んでくれていると思い込み話を続ける。(まあ、実際、大喜びはしているのだが) 「それなら良いんだけどな。そういうわけで、次の日曜に行くからあけておいてくれよ」 「う、うん!絶対にあけるから!!予定なんか入れない!!」 折角の初デートなのだから、例え予定があってもキャンセルする。完全に美琴の心は舞い上がっていた。 「ふう、これで上条さんも一安心ですよ。皆楽しんでくれれば本当にチケットを配った甲斐があるというものですよ」 と、これまた意味深な発言を繰り返すのだが、やはり舞い上がった美琴の心はもう何も聞いていなかった。 そして、寮に帰っても喜びを隠せない美琴は黒子の前で当麻とのデート予定を激白(もちろん黒子用のチケットなどなく、二人っきりのデートである事も全て)。黒子がその場で真っ白に燃え尽きていたが、それさえも気にならない程に美琴は舞い上がりっぱなしだった。 「ふふん~♪何を着て行こうかな~」 などと制服着用義務さえ忘れている美琴の姿を見て、燃え尽きた黒子の灰はさらに風に吹き飛ばされていくのであった。可哀想に…… しかし、当日になって浮かれた美琴の心は急転直下し、地獄の底へと叩きつけられる事になる。何故なら…… 「トウマ、秋沙は判るとしても、なんで短髪がここにいるのかな?それにまた別の女性も……」 「上条君、どういうことなの?」 「上条当麻、どういうことか説明してもらえるか?」 待ち合わせした遊園地の入り口前で美琴が見たのは、上条当麻の姿だけでなく、白い修道服を着た少女、前に公園で見掛けた日本人形のような黒髪の少女、さらに大覇星祭で当麻の前で倒れた巨乳の少女達の姿だった。 「え?いや、だから、普段からお世話になっている人たちへの感謝の気持ちだって言ったじゃないですか」 自分のやった事の重大さが全く理解できていない当麻はあっさりとそう答えたが、その瞬間、吹寄のヘッドバッドが当麻の脳天へと、姫神のアッパーがみぞおちへと突き刺さり、とどめに美琴の電撃が全身に落ちる。 「な、なんで……不幸だ……」 パタリと崩れ落ちる当麻。もちろん、いつもの口癖は忘れなかった。 「自業自得なんだよ、トウマ。そして、まだ私の罰が残っている事を忘れないでよね」 そして、その言葉通り、数秒後意識を取り戻した上条はインデックスに頭から噛みつかれることとなった。まさに自業自得…… ******** 「ところでその制服、常盤台中学のものよね?なんで貴方みたいなお嬢様学校の子があんなバカと知り合いなの?」 前を歩く巨乳の少女が美琴に話しかけてきた。 『確か、吹寄制理さんだったっけ?』 見た目からかなり気の強そうな顔をし、当麻が好みそうなほど巨大な胸をした少女を見ながら、それはズルイな……などと美琴は心の中で溜息をつく。 結局、あれから解散するわけにもいかず、お互い自己紹介の後、5人で遊園地に入ったものの、気まずい空気は払拭されず沈黙がその場を支配していた。しかし、もともと吹寄制理と姫神秋沙の二人は同級生、しかも友達同士という事もあり、すぐに二人は会話を始めるのだが、どうしても年下であり、学校すら違う美琴にとってとても居づらいものであった。 「大丈夫よ。別に貴方が悪いわけではないから。どちらかと言えば乙女心を理解せずにこういう事をするあのバカに責任があるんだから、気にしないで」 「は、はあ……」 とはいえ、気易く当麻の事を「あのバカ」と呼んでいることが美琴にはなんとなく気に入らなかったりもする。 「彼は私と私の妹の命を救ってくれた命の恩人だから。全身全霊を賭けて私たちを守ってくれた人だから」 と、特別な関係である事を示すような言い方をしてしまう。 「ふうん」 しかし、吹寄はさほど気にする様子もない。まるで「そんなことは判っている」とでも言っているように美琴には感じてしまう。 「やっぱ、あのバカ無茶やってたのか」と悔しがるような呟きが吹寄の口から聞こえた。 「確か、御坂美琴さんよね」 今度はもう一人の黒髪の少女から話しかけられる。 「え、ええ」 一応返事はしたが、その少女-姫神秋沙は何かを考えるかのようにしばらく無言が続く。そして、数秒の後、彼女の口からは核心をつく台詞が美琴に向けて放たれる。 「上条君は目の前に苦しんでいる人がいたら助けずにはいられない人。私だってその一人。だから、それが特別にならない事は知っている」 そう、上条当麻と言う人間はそういう人間だ。それは美琴も理解している。 だからと言って、それを認めてしまえば、自分の存在さえも消えてしまうような不安感を感じてしまうのも事実だ。だから、いままで見て見ぬふりをしてきたのだ。彼の傍にいるインデックスという少女も同じく救われた側であろうという事実ですらも。 「まあ待て姫神。彼女はまだ中学生だ。自分の感情に戸惑いを覚えても仕方のない年齢だ。そう責めるものではない」 恐らく吹寄も悪気があったわけではない。そんなことは美琴も理解している。しかし、美琴にはどうにも我慢できなかった。当麻が高校生で自分が中学生であるという現実。この年の差のせいで美琴が当麻にまともに相手してもらえてないことを理解しているから、第三者にその現実を突きつけられた事に無性に腹が立った。 「そんな事!わかってるわよ!!でも、自分の気持ちに嘘なんかない!!私は本当に!!」 しかし、美琴はそこで言葉を止めてしまう。ここから先はこの場で言うべきではないのだと、判ってるから。 そして、それは他の二人にも理解できてしまったのだろう。最初に謝ってきたのは吹寄だった。 「すまない。その事を責めたつもりではなかったのだ。君に不快な思いをさせたのであったならば謝ろう。申し訳なかった」 そして、姫神もそれに続く。 「ごめんなさい。私も焦ってしまって、貴方を傷つけてしまった。本当にごめんなさい」 そんな二人の態度に美琴は自分を恥じることになってしまう。これが中学生の自分との違い。学園都市最強の7人のレベル5の第3位と言われても、結局自分は単なる子供なんだと痛感させられてしまう。 「おいおい、何があった?」 そして、このタイミングで当麻が割り込んでくる。 「吹寄、姫神、何があったんだ?御坂もなんでそんな表情してるんだ?」 そう、こいつはこういう奴だ。普段は全く自分たちの事を気にも留めないのに、苦しんだり、悲しんだりすると直ぐに来てくれる。それが有難くもあり、辛くもあった。 「上条、申し訳ないが、そこのシスターとちょっと先に行ってお弁当を食べれるような場所を確保しててくれないか。私達はちょっと話し合う必要があるようなのでな」 「ゴメン、上条君。私も吹寄さんと同じ。先に行っててくれないかな。すぐに追いつくから」 二人の真剣な表情に当麻は困ったような顔をしたが、「御坂もそれでいいのか?」と尋ね、頷くのを確認すると「わかった」と言って、その場を離れて行った。 インデックスだけは「なんで私を入れてくれないかは聞かないけど、シスターは迷える子羊には優しいんだよ」と、わかったようなわからないような言葉を残して去って行った。 「さて、では少しばかり本音で話をしようか」 吹寄のその台詞に美琴は力強く頷いた。 ******** そして、20分後、3人はお互いにすっきりした表情で当麻達のもとにやってきた。 心配していたようなことにはなっておらず一安心した当麻だったが、しかし、お弁当を広げた瞬間今度は当麻が困ることになった。 「ええと、どれから食べればいいでしょうか。上条さんは非常に迷います」 と、嫌な汗を大量に掻きながら、当麻は箸を持ったまま固まってしまう。 美琴の作った洋食も、姫神の作った和食も、吹寄の作った中華も、どれもが非常に美味しそうでどれから食べようか迷ってしまうのも事実なのだが、それ以上に”誰の”お弁当から手をつけるのか、それが問題になってしまっていた。 「上条当麻。まさか私の作ったものが食べられないというのではないだろうな?」 と吹寄が氷の瞳で睨みつけているかと思えば、 「上条君は和食が似合うと思う。是非食べるべき」 と姫神が真剣な瞳で見つめてくるし、 「ど、どれから食べても構わないけど、折角私が作ったんだから、ちゃんと食べなさいよ」 と真っ赤な顔で上目遣いに睨んでくる。 『3人とももしかして上条さんを苛める相談でもしてたんでしょうか?なんでこんなに心臓に悪いんでしょう?』 当麻はまるで蛇に睨まれた蛙の如く動けずにいた。 「トウマは、やっぱりトウマなんだよ。というか、トウマが食べないんだったら私が全部食べちゃって良いのかな」 などと相変わらず食欲魔人の如くな台詞を口にする。KYって言葉知ってますか? 「ええい!悩んでいても仕方ない!ここはこうすればいいんだ!!」 もう形振り構っていられないと判断し、完全に吹っ切れた当麻はあろうことかそれぞれの弁当から一品ずつを抜き取り一度に口の中に放り込んだ。 「バカなのか上条当麻!そんな事をすれば味も何も分からなくなるだろ!!」 「やりやがった、この野郎」 「あ、アンタってば本気でバカなの!?」 と、三者三様の反応を示すが、「美味い!美味いぞ、これ!!今まで食べた事の無い美味さだ!!」と当麻が涙を流して喜ぶと、3人とも顔を真っ赤にして、 「あ、当たり前だ。そのために作ったのだから」 「喜んでもらえたなら、嬉しい」 「ば、バカ。そんなに大喜びすんな」 恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうな顔をする。 逆にそれに対し機嫌が悪くなったのが一人。インデックスである。 インデックスは自分で調理などしないから同じ土俵には立てないが、蚊帳の外にいる現状に納得がいかなかった。だから、インデックスが取る手は一つしかなかった。 「トウマばっかりずるいんだよ!私も食べるんだよ!!」 と、当麻の先手を取りお弁当を食べつくす蹂躙作戦に打って出たのだった。 そして、自分たちの食べる分が無くなる事に慌てた、美琴、吹寄、姫神もお弁当争奪戦に参加。こうして賑やかな昼食は瞬く間に過ぎて行った。 ******** 「ねぇ、楽しかった?」 夕陽の差しこむゴンドラの中で、美琴は目の前に座る当麻に楽しそうに話しかける。 「そうだな。たまにはこういうのも悪くないよな」 当麻はそんな美琴を見て、やはり嬉しそうに答えた。 昼食の後、それぞれの希望するアトラクションを巡る事になり、吹寄の希望するジェットコースター、姫神の希望するお化け屋敷、インデックスの希望する屋台めぐりをそれぞれの希望者と当麻のツーショットで回る事になった。そして、最後が美琴の希望した観覧者だった。 これも希望者と当麻のツーショットで乗る事になり、今ゴンドラの中は美琴と当麻の二人しかいない。残りの3人は気を利かせて別のゴンドラに乗っている。 「なあ、3人で何を話してたんだ?」 当麻は気になっていた事を美琴に尋ねた。 実は他の二人にも同じことを尋ねようと思ったのだが、何故か口にする事が出来なかった。だから、美琴に聞くことにしたのだが、何故美琴には聞く事が出来たのか、当麻自身気が付いていない。 「大したことじゃないよ。ただ、自分たちの気持ちに向き合えてるかどうかの確認」 そう言って、それ以上の事は話そうとはしなかった。 そして、沈黙に支配されたゴンドラが丁度頂上に差し掛かった時、再び美琴は口を開く。 「ねえ」 ゴンドラに差し込む夕日が背後から美琴を光輝かせる。 それはまるで妖精のような美しさだと当麻は素直に感じる事が出来た。 「私がアンタの事好きだって言ったら信じる?」 そして、その言葉は魔法のように二人だけの時間を示す時計を止めることになった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/恋する美琴の恋愛事情
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いちゃいちゃの究極っつとABCとかになるんかね? 上条「何か日が当たるようなったなここ?」美琴「え? ええ、そ、そうね、来た時より明るくなったわね」上条「んー。つう事はあれか? 何か期待されてるって事なのか? 俺たち」美琴「え? さ、さあどうかしらね」美琴(期待って……。一体何期待されてるっての!? 大体、いちゃいちゃって、やっぱ手ぇ繋いで公園歩いちゃったとかそー言う事なのかしら……)『ジ……(上条の右手をガン見)』上条「何見てんだ御坂?」美琴「は……? え、えええ、えーと……。あは、あははははは……、取り合えず、えいっ!」『バチッ』上条「うおっ!? 危ねぇ! 何しやがんだ急に、このビリビリ娘はっ!」美琴「ビリビリって言うなってんでしょうが、このバカァァァアアア!!」上条「おまっ! 電撃飛ばしといて今度は逆ギレですか!?」美琴「何よ、ちょっと電撃飛ばしたくらいで一々ギャーギャー騒ぐんじゃないわよ、小さい男ね! どぉーせその右手のおかげで効きゃしないんだからどぉでもいいでしょうが!!」『ダンダンッ!(足踏み)』上条「被害を受けた上に非難まで受けるとは……。ふ、不幸だぁ……」『ガク……』美琴「フンッ。(ど、どうやら誤魔化せたみたいね……)」上条「あー……、カミジョーさんは今ので非常にショックを受けました。ですので、今日はこのまま帰ってよろしいでしょうか? ええ、いいですよ。はいそうですか、では皆さんさやうなら……」美琴「コラコラ。アンタは何勝手に締めくくって帰ろうとしてんのよ? 私はどーすんのよ? わ、た、し、は」上条「お前も帰ればぁ? ハァ……」美琴「あ、ちょ、もうっ! ちょ……とぉ、ま、ち、な、さ、い、よぉ……」『ぐぐぐ……(上条の腕を掴んで踏ん張る)』上条「何だよ御坂……。今日のカミジョーさんは傷心旅行に出たいくらいブルーなんですのよ? ただ傷心旅行に行く金なんかこれっぽっちも無いから、取り合えずスーパーの特売にでも行ってこようと思ってるんですがね?」美琴「そ、それって私より大事なの!? (い、言っちゃった!?)」『カァ……ッ』上条「はあ? あの……、仰っている意味が良く判り兼ねるのですが?」美琴「…………」上条「あの……、御坂?」美琴(これ以上言っちゃダメ! 私が期待しちゃう! 私がコイツに期待しちゃうからっ!! と、とにかく、とにかく何か言わないと……)上条「もしもーし」美琴「え、あ、え、えーと……ね。その、あの、何て言うか……」『モジモジ……』上条「ああーっ!!」美琴「ふえっ?」『ビクッ』上条「御坂!!」『ガシィィッ!!(美琴の両肩をホールド)』美琴「ハイッ!!」『ビクッ』上条「また『ゲコ太』か? そうなのか? そうなんだな?」美琴「え! えぇ!?」上条「やっぱりそーなんだなー。おかしいと思ったんだ。お前がこんな変な企画にホイホイ乗ってくるなんて。考えてみたら前回の罰ゲームん時もそうだった。その前は、海ば……ま、あれはいいな。あれはノーカンだな。ノーカンノーカン」美琴「あ、あの…」上条「お前ホントゲコ太好きなんだなー。よし判った! 他ならぬ御坂の頼みなら聞いてやらない事も無い事も無いの反対だからアリだ!!」美琴「え……、ちょ、ちょっと……」上条「インデックスの事では、随分と借りがあるからな。あん時は罰ゲームやら、その後のごたごたやらですっかりうやむやになっちまったけど、俺は忘れてたわけじゃ無いんですよ?」美琴「そ、そんな……私は別に貸したなんて……」上条「じゃ、要らないとか? 流石見た目通り太っぱ――」美琴「それ以上言ったら許さないわよ」『ゴゴゴゴ……』上条「ひゃい!?」美琴「フン」上条「ハァ……、で、どうすっかねこれから」美琴「え?」上条「やっぱあれかね? いちゃいちゃの究極っつとABCとかになるんかね?」美琴「ハイ! 先生!」『ビッ』上条「はい、御坂君」美琴「AとかBとかCって、何?」上条「あ、あ……」美琴「何でそこで遠い目すんのよアンタは?」上条「ぅぅぅ……。ごめん、別の事考えっから許してくれ!」美琴「ほほ……う……」上条「な、何っ?」『ビクッ』美琴「私に言えない事、な訳ね?」上条「あ、あ……、え、え……」『タラ……(冷や汗)』美琴「ゆったんさい。先生怒らないから」上条「とか言って怒るじゃん。俺の経験則から言って、それ言って怒らなかった人皆無――」美琴「じゃ、判るわよねぇ? 言わなくても怒るって……」『ギロッ』上条「ひっ!? ふ、ふこ、不幸だッ」美琴「男なら覚悟を決める。ほら、さっさと全部吐いて楽になったらどうだ?」上条「何? その電気スタンド俺に向ける様なポーズ? べ、弁護士呼んでくれよ刑事サン!? こ、この人暴力振るう気だよ! 自白強要だよ!!」美琴「は、や、く、い、えっ、て、の!」上条「痛ッ!? 痛い痛い!! 暴力反対!! つねるの禁止!! 人類みな兄弟ッ!! 痛ッ!! 喋る、喋るからつねるの止めて!!」美琴「最初っから素直にしてりゃ痛い目見ないで済んだものを……」上条「(こえーよ御坂、きっとコイツの前世ってナチスのSSか何かだよ……)」美琴「誰が第三帝国の手先ですって? 馬鹿言ってないでさっさと白状する」上条「ぅ。じゃ、怒ったり驚いたりすんなよ。暴力も禁止だからな!」美琴「アンタに隠し子がいるって聞いても取りみだしません」上条「いや、それは驚こうぜ――じゃ、話すけど、ABCってのは恋愛の順序を顕わしたものなんだけど……」美琴「うんうん」上条「ABCは3段階の順序を表してるんだ」美琴「それでそれで」上条「え……。まず、A。これがキス」美琴「うん。Aがキス。……、…………」『ボンッ』上条「ほらぁ。またふにゃぁか? いいぞ、大丈夫だ、問題無い。(その方が俺も助かる)」美琴「たひっ、たひじょぶだから、つづけへ」上条「うっ。じゃ、気をしっかり持てよ」美琴「ふ、ふひゅん」上条「(大丈夫かコイツ)じゃ、Bな。ペッティング。Hの前戯とか――」美琴「あう゛」『ブシュー』上条「み、御坂っ!!」美琴「らいじょーぶ、らいじょーぶよー」上条「はぁ、これじゃ何時ゲコ太ゲット(いちゃいちゃ)出来るか判んねーなー。ってか出来るのか?」結局Bまで聞いた所でダウンした美琴は、上条さんの膝枕で、上条の上着を掛け布団代わりにお休み中。一方、上条は、そんな美琴の寝顔を時折覗き込みながら、色々と思案中です。上条(何か妙に熱い視線を感じるなー。つーか、いい加減起きねーかな御坂? こんなトコでいつまでも寝てっと背中イテーだろうし……)上条「おーい、御坂? もしもーし。早く起きねーと、風邪引きますよー」『チョイチョイ(頬をつつく)』美琴「うーん……。むにゃむにゃ」上条「なんつー幸せそうな寝顔です事……」上条(んー、起きねえなー、やっぱり。どーすっかなーこれ?)上条「いっそ抱き抱えてコイツの寮まで……。いやいや待てよ?」上条(そんな姿を土御門やら青髪やらに見つかったら? いや、ぜってー見つかるに決まってる。んでアイツら俺の事目ぇ血走らせて追いかけ回すに決まってんだ。それで逃げ切ったとしても、後である事無い事言いふらさまくってみろ……!?)上条「カミジョーさんのバラ色――予定――の恋愛模様が!? 神聖な花園が土足で踏みにじられてっ!! うっがー! 不幸だぁ――――――――――!!」上条『ゼエ、ゼエ』「こ、こうなったらヤルしかねえ。鬼になれ――。血に飢えた獣になれ、上条当麻ッ!! そして奴らの喉笛をガブーッと……」美琴「…………」上条(あれ? いつの間に目を覚ましたんだコイツ?)上条「みさ――」美琴「イヤッ!!」『ゴンッ!(垂直アッパー)』上条「はぐっ!?」美琴「ぁ……」上条「な、ないひゅあぱぁ……、ふこ……」『ドサッ(親指を立てながらゆっくりと崩れ落ちる)』美琴「あれ? あ、あれぇ?」美琴(私一体どうしたんだっけ? 落ち着いて思い出せー……。確か、コイツがAとかBとかおかしな事言いだしたんだったわ。それで……)『もそもそ』美琴「これ……。ぇ?」美琴(学、ラン……?)『ギュ―――――ッ(思わず学ランを引き寄せて丸まる美琴)』美琴(はぁ、こんなモノからもでもアイツの無駄な包容力を感じるのねぇー……)美琴「って!? な、何考えてんの私!? ち、違うのっ!! こ、これは寒いから!! そう!! 寒いから思わずあったかいなぁー、なんてっ!! はは、あはは、あはははは……、はは、は、は……」『スリスリ(空笑いしながら上条の膝をなでる)』美琴「!!!」『ガバッ!! ズサササササササッ!!』美琴(な、何でわ、わた、わた、わた……)美琴「ふにゃあ」『ゴンッ!』美琴「あだっ!? ぅ……、頭が割れる……。不幸だわこれ……」『すりすり(自分の頭をなでる)』美琴「!!」『ババッ! バババッ!!(高速で自身の身だしなみチェック)』美琴「ふー……、おかしな所は無いみたいね……」『ガックリ』上条「う、う……」美琴「あはははは。ま、まあ、アレね。は、初めてが気付かないうちに終わっちゃいましたじゃ、ああ、あんまりにも情けないもん……ブッ!?」『カァァァァァァアアアアア……(ゆでダコの様に真っ赤)』上条「不幸だ……。まだ顎がガクガクする」『コキコキ』美琴「ふぁ、ふぁたひは何期待してんのひょ? あ、あんにゃヤツ……、あんにゃヤツゥにはひ……」上条「あの右は絶対世界に通用するよ。日本初のヘヴィ級王者誕生ってか?」美琴「誰がヘヴィ級じゃゴラァ――――――――――ッ!!」『ガシッ!!(タックル&馬乗り)』上条「うわっ!? み、御坂!!」美琴「アンタはこんな時まで私の事スルーなんかっ!! ス、ル、ウ、な、ん、かァァァァァァアアアアアア!!」『ガクガク(マウントから胸倉を掴んでゆする)』上条「な、ん、の、は、な、し、だ、や、め、ろ、お、お、お、お……」美琴「ざけんじゃないわよこのっ!! パンチは褒めて、体は放置ですって!? こんな目の前に美味しいそうな女の子が転がってたら、唇の一つや二つや三つ奪うのが漢(おとこ)の筋ってもんでしょうが!!」上条「ま、待て御坂、お、お前言ってる事がおかしいって」美琴「何がよっ!? AとかBとかCとか!! とにかくアンタが先に言いだしたんだから、さっさと責任とって私に実践してみろってのよ!! この据え膳食わずの甲斐性な――」上条「落ち着け美琴ッ!!」『ギュ(持ちつかせようと抱きしめる)』美琴「ッ!?」『ビクッ』上条「美琴、ちょっと落ち着こうな。ほら、女の子のマウントポジションはカミジョーさん的には嬉し恥ずかしシチュエーションながら、取り合えず上から降りて」美琴「う、うん……」『ボボボボボ……』上条「よし美琴。で、何だって? 俺と、その、AとかBとかどうしたって?」美琴「え? そ、それは、えーとぉ……」『ザァ―――――(一気に血の気が引く)』上条「はぁ……、いいよ。言わなくて」美琴「へ?」上条「あのさー。お前、もう少し自分を大事にしろよな。ゲコ太ゲコ太ってそんなにお前にとって大事なのか?」美琴「え? え?」上条「まー、ふった俺が悪いんだけどさ。よく無いだろ? そう言う事は、好き同士がしなくちゃな」美琴「ちょ、ちょっと待って! 何か話がおかしな方向に行って――」上条「とにかく今回の目標は何だ! ヨシ! 美琴クン言ってみたまえ!」美琴「へ? あ? い、いま、美琴って呼ん――」上条「それはいいから答えたまえ!」美琴「あ、はい……。い、いちゃいちゃ……、する?」上条「そう! 正解ッ!」『ビシッ』美琴「ふえ?」上条「では第二問! 我々がいちゃいちゃするための障害を述べよ!」美琴「え……、ア、アンタの女性遍歴?」上条「ぐはっ!? そ、それは誤解が六回ですのよ御坂さん。ぼ、僕は決して優柔不断なハーレムキャラではございませんし、そもフラグ男などと良く言われますが、けっしてそれが良いのかと言えば、たまに発生する桃色イベントぐらいで、その後は、もう、もう……。あ、心の汗……」美琴「(ウ、ウザい)」上条「ぐぞ……。俺だってなぁ。俺だって、ホントは恋愛したいんだぜ。誰はばかる事無くキャッキャウフフしてえんでございますよ!!」美琴「え!? そ、それならわたし――」☆「それには及ばん」『グゴゴゴゴゴゴ……(床からせり上がる水槽。そこには逆さに浮かんだ、男にも女にも以下省略)』上条&美琴『ビクッ』「「ア、アンタだれ?」」☆「気にする事は無い。そうだな。上条当麻君。君の先輩、とだけ言っておこう」上条(先輩……? 学校にいたかこんな変な奴……?)☆「特に意味は無い。一つ付け加えるなら、学校ばかりとは限らん、と言う事だ」上条「は、はあ……」美琴「あの……」☆「何かね?」美琴「さっきの言葉の意味って?」☆「言葉どおりだ。君たちは君たちの思うままに青春を謳歌したまえ、と言う事だ」美琴「え、それってどう言う意味……?」☆「学園都市第3位の割には飲みこみが悪いな。それとも聞き返す事に何か意味があると取るべきかな?」『ニヤリ』美琴「んなっ!? ちょ、ちょっと、今の言葉取り消しなさふががっ!?」上条「わ、判りましたっ! 自由にしていいって事ですよね!」美琴「むがあ―――――!!」☆「君は物わかりがいいな」上条「ハハハハ。よ、良く言われますぅ」☆「(これで、後回しに考えていたプランが大幅に短縮される)」上条「え?」☆「若者が細かい事を気にするな。では、存分に励みたまえ。成功を期待している」『グゴゴゴゴゴゴ……(水槽が床に沈んで行く)』上条「はぁ……、何だったんだ一た痛ッ!!」美琴「ぷぇ。口離せこの馬鹿ぁ!!」上条「だからって噛む事ねえだろ?」美琴「ざけんじゃないわよ!! アノ金魚ヤロー、私の事見て笑ったのよ!? タダじゃおかない!! 今すぐ床ぶち抜いてあのクソ水槽から引きずり出して3枚にオロシテやるんだからっ!!」上条「物騒な事言ってないで外行くぞ、外」美琴「は、な、せっ、て、の、が、わ、か、ん、ねーのか、アン、きゃ!?」『ガバッ(上条にお姫様だっこされる)』上条「ああ、判りませんねー。猛獣ビリビリ中学生のたわ言など」美琴「ま、またビリビリって!? アンタまで私の事馬鹿に、きゃああ――――!?」『グワッ(上条がぐるぐる回りだしたので思わず首にしがみつく)』上条「大人しくしないと、ぐったりするまでメリーゴーランドの刑にしますよぉ――――?」美琴「わ、判った、判ったから、回るの、きゃああああ!?」『グルン(今度は逆回転)』上条「判ってくれた?」美琴「判ったって言ったでしょぉぉおぉおおお!? だ、だから、だから早く止め、きゃああああああああああああ!!」美琴(ふふ。ホントは全然平気なんだけど、面白いからもう少しこのまま)『ギュ』美琴「(べ、別に気分転換に抱きついてる訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!)」『ギュ――――ッ』上条「どうだ御坂ぁ!! こ、これが上条ハリケーンだぁ―――――――――――――!!」美琴「やめてとめて、きゃああああああああああああ―――――!!」『ギュギュッ』謎の部屋を抜け出した2人は、☆の言った通り好き勝手する事にしたのだが。美琴「どこ向かってんのよ?」上条「取り合えずスーパー」美琴「スーパー?」上条「そう、スーパー」美琴「先生質もーん!」『バッ』上条「はい、美琴君!」美琴「美こっ!? み、みみ、美ここ……」上条「巫女? 姫神の事か?」美琴「違ッ!? って姫神って誰?」上条「うちのクラスメイトの巫女さん。これがまた格好とは正反対の何と言うか何と言うか、色々残念な感じなんだよ」美琴「いつの女?」上条「は?」美琴「いつ助けた女なの?」『パリパリ……』上条「ぇ……」(何怒ってんだコイツ?)『ジリジリ……』美琴「私より先? 後?」『ギロッ』上条『ゴクッ』「さ、先」美琴「どっちのが大変だった?」上条「へ?」美琴「どっちのが手間かかる女だったのか聞いてるのよ?」『ピシッ』上条「ひぇええ!? ひ、姫神っかな? そん時俺、右腕もげて死にかけたし。あ、でも、お前ん時も、全身打撲で毛細血管バンバン弾けてやっぱ死にかけだったしな」美琴「…………」上条「え? 何? 良く聞こえな――」美琴「馬鹿っつたのよ、このトウヘンボクッ!!」『バリバリバリッ』上条「ぬおぅわっ!! 御坂お前、急な電撃は止めろって――」美琴「死ぬわよ」上条「は?」美琴「アンタなんかホントはぜんっぜん弱いんだから、いつか死んじゃうわよ!!」上条「あの……、急にシリアス?」美琴「茶化すんじゃないわよこの馬鹿ぁ――――――――――!!」『ドスッ(頭から鳩尾に体当たり)』上条「おふっ!!」美琴「勝ち逃げなんかしたら許さないんだから、ぐすっ、ぐすっ」上条「不幸だぁ……。って、あれ?」美琴「ぐすっ、ぐすっ……」上条「あの……」美琴『キッ』「ぐすっ、ぐすっ……。何よぉ、すんっ、ぐすっ」上条(何ですかこの修羅場……?)『ポリポリ(上条困った顔で頬をかく)』「ふぅ。あのな、美琴」『パシッ(美琴のの頬を両手で挟んで)』美琴「ふきゅい!?」上条「俺を勝手に殺すな」美琴『コクコクコク……(目だけでうなずく)』上条「まあ確かにお前が言う通り、俺も毎回生き残る度に、は、まぁ本当によくもって思うのは確かだよ。だけどな、『死ぬ気で頑張る』とか、『死んでも頑張る』とか、そー言う言葉は、俺の辞書にはねーんだわ」美琴「…………」上条「それでもお前が不安に思うなら約束してやる。勝ち逃げはしない」美琴「で、出来ると、思ってんの?」上条「ああ出来る。信じてるからな――仲間を」美琴「ッ!? そこ……ぁ……」(聞けないっ! 仲間(そこ)に私はいるのかなんて……)上条「頼むぜ美琴」美琴『ぽわぁぁぁぁぁ……(星と花を散らせた蕩ける様な満面の笑み)』上条「それにはまず泣き虫治してくれよな」美琴「ハッ!? うっさいうっさいうっさーい!! も、当麻のくせに生意気なのよっ!!」上条「ハハッ、その調子で頼むぜ御坂。天下の学園第3位様には、涙より元気いっぱいのが似合ってるぜ!!」(あれ? 今名前で呼ばれた様な気がすっけど……)取り合えず仲直り(?)した2人は、当座の目的地、『スーパー』に向かっていたのだが……。美琴「ねえ」上条「…………」美琴「ねえっ!」上条「…………」美琴「この状況ですら無視すんのかコラァ!!」『バシバシ』上条「って!? 何なんですかお前は? 反抗期ですか?」美琴「呼んでんだから返事くらいしろっ!!」上条「ああ……、わりぃわりぃ。で、何んだ?」美琴「えっ、あ、あのぅ……」『モジモジ』上条「どうした御坂? 顔なんか真っ赤にして」美琴「え……あ、えっ、あぁ……」(「何で私の手を握って歩くの?」って聞きたいのに言葉が出ないっ!?)『チラ、チラ(目線が手と、顔と、何も無い空間を順番に追う)』上条「ああっ!!」美琴「!!」『ビクゥ』上条(トイレ、だろ? この様子、きっとそうだ。そうに違いありませんぜ、とカミジョーさんの中の紳士な部分が申しております)上条「わりぃわりぃ。え、えーとー」『キョロキョロ』(ここは自然に俺がトイレに行くふりをして……。お! おあつらえ向きの店があるじゃんよ)「美琴わりぃ。ちょっと寄り道いいか?」美琴「え? あ、ちょ、ちょっとぉ」『タタッ、トタタ、トタッ……(上条に手を引かれてよろける様に後について行く)』 そうして2人が入ったのは、とある大型ショッピングセンターの1階。しかも入った場所が悪かったのか、上条の運(ふこう)のなせる技か、この日の1階はフロア全てで女性用インナーを扱っていたのだ!!上条(うわっ!? 何でこんなッ!! ク、クソッ、き、気にするんじゃ無い上条当麻。無心!! 無心になるんだ)『スタスタスタ……(斜め下を向いて視野を極力狭くして足早に歩く)』美琴(やっ、ちょっ、あのニーハイかわいい……。このショーツのひらひらもステキね……。でもどうしてこんな所……? ハッ!? も、もしや……)『カァァァアアアアア……』美琴「ねぇ……」『モジモジッ』上条(見るな感じるな考えるな。アレには中身は入って無い。ただの布切れ、ただの布切れなんだ!)『スタスタスタ』美琴「あの、さ……。私も最近黒子の奴に毒されて来たのかな? その……、たまには大人の下着なんてもの、その、いいかなあ、なんて……」『モジモジッ』上条(あの黒いガーターベルトも、スケスケのキャミソールも俺には見えない! 見えないんだぁぁぁああああああああああ!!)『スタスタスタ』美琴「それでね、もし、やっぱさ、そう言うの買うならさ、い、異性って言うの? ほら、黒子とかじゃ色々と危険だし? と、年、う、上の意見なんかも参考にし、しし、したいし?」『モジモジッ』上条『ビクッ』(くあっ!! ば、馬鹿なっ!? 何ですか? 何で下着姿のオネーサンが頬笑みながら目の前を横切るんでせうか!? ここは桃源郷? いや馬鹿止めろ俺の心!? 無心だと言うのが判らんのかっ!!)『タタタタタ(上条、小走りになる)』美琴「でさ、か、かかか、勘違い、し、しな、しな、しないで聞いて欲しいんだけど。さ、参考に、ア、アアア、アンタの意見聞かせ……て……ほしい、かな? なんて……」『モジモジッ』上条(ヒッ!!)『ビクッ』「ノーパン……」美琴「ノ、ノーパンッ!?」『ビクッ』上条『ガクガク(目の前を通った超シースルーショーツ『羽衣』を着た女性を指さして震える)』美琴(そ、そんな高いハードル、き、急に飛び越えろって言われ……ハッ!? これは試練? 私は今パートナーとして試されてるの……?)上条『ギギギギ……(上条の首がぎこちなく回る)』「みさか……(棒読み)」美琴『ビクッ』「え! あ!? あの、わ、私頑張るからっ!!」『グッ(拳を握る)』上条「むりはするな。せかいがちがうんだ。わすれろ。おれもわすれるから(棒読み)」美琴「だ、な、何言ってんのよ? だ、大丈夫だから。ほら、今証明して見せるからっ!」『パッ(上条の手を解く)』上条「?」美琴「み、見ないでよねこっち……っと、よっ、と……」『モソモソ、ゴソゴソ(上条から見えない角度で、何やらスカートに手を突っ込んでくねくねしている)』上条「お、おい?」美琴「お手」上条「お手」美琴「はい」『パサ』上条「何これ?」美琴「証明」上条「何だよ証め……(手にしたものを広げると、見た事のある短パン)ぶっ!? こ、こりゅえ!!」『ボフン(真っ赤)』美琴「今はこれが精一杯――無くさないでよね。い、ち、お、う、返してもらう予定だから」『カァ――――ッ(上条以上に真っ赤)』上条『コクコク(短パンを握りしめてうなずく)』美琴「オッケ。じゃ、そ、その、恥ずかしいから、もうしまってくれる?」『モジッ』上条「お、おう、わりぃ……」『ゴソゴソ』美琴(ポケットに仕舞った……)『ボフッ』上条(何やってんだ俺? 御坂の短パン、ポケットにねじ込んで……。しかも、この状況になんかドキドキしてないかぁぁぁあああああああ?)美琴「ねえ」上条「ひゃい!?」『ビクッ(右腕に美琴がしなだれかかって来たので)』美琴「折角だから、ここ、回ってもいい?」『ギュ』上条「お、おう」(む、胸ッ!? 胸ェッ!?)美琴(おかしいわね? こう言う時は必ず邪魔が入るモンなんだけど? ま、いいわ。今はこの時間を楽しみましょ)白井「今日は一体全体何なんですの!? つまんない事件ばっかりあちこちあちこちあちこちと――」初春『白井さん、そんな事言ってないでさっさとお財布探して下さい! 中に入ってる映画チケットで入館出来る時間は、あと30分切ってきゃ!?』白井「初春?」××『その映画は超レアなんです。これを逃すと次はいつか分からないんですよ! 本当に超よろしくお願いします!!』初春『だ、か、勝手に通信しないで下さい! 白井さん、そう言う事らしいんでよろしくお願いしますね!』『ブツッ』白井「ホント何なんですのよ今日は?」
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/未来からの来訪者 ~4th day まこてんしょ~ チケット売り場に並んで十数分、ようやく麻琴たちはチケットを入手することが出来た。 さすが休日の遊園地、なかなかの混雑具合である。 上条と美琴はフリーパスでさっさと中に入って行ってしまったようで、周囲には見当たらない。 だが、つい先ほどゲートの付近のインフォメーションセンターに向かうのを見たのでまだそこにいるはずだ。すぐにそこに向かえば見失ってしまうことはないだろう。 しかし、麻琴はそれとは別の懸念事項を抱えていた。 「チケット代で早くも上条さんのお財布が若干ピンチに……」 自分とインデックスの分の代金を支払ったおかげで、心細くなった財布の中身。 自分の時代にいた頃は奨学金やらでお金に困るようなことは特になかったのだが、ここ数日は美琴から支給されるお小遣いのみなのだ。 まぁ、今日の分はインデックスの食費等も含め多目にもらってはいるのだが、やはり彼女の食費を考えると心もとない。 「まこと、そんな細かいこと気にしてちゃいけないんだよ」 「いや、細かくないわよ!? 結構重要なことよ!?」 「麻琴ちゃん。そろそろ行かないと本格的に上条さんたち追えなくなるんじゃない?」 コントのようなことをし始めた麻琴とインデックスに佐天が釘をさす。 佐天としても、このチケット代は予想外の出費なのだ。無駄に終わらせるわけにはいかない。 「そうだね。さっきとうまたちがあの建物に入っていくのを見たんだよ。出入りを見てた限りまだ中にいるはずなんだよ」 それに答えたのはなぜだかインデックス。私の完全記憶能力に間違いはないんだよ、と胸を張っている。 「あ、あれー? 今あたしが聞かれてたよね? 何でインデックスさんが答えてるの!?」 「早い者勝ちなんだよ」 「えぇ~……」 果たしてそういう問題なのだろうか。インデックスの答えになんだか納得のいかない麻琴である。 「よ~し、じゃあ、見つからないように建物のそばに隠れよっか」 「それがいいかも」 早速移動を始める佐天とインデックス。 「ちょっと、置いてかないでよー!」 麻琴もその後を駆け足で追いかけていった。 その頃、インフォメーションセンターに立ち寄った上条と美琴はあるサービスの説明を受けているところだった。 「と、いうわけでして、カップルの方は優遇されるサービスとなっております」 ニコニコと営業スマイルで説明をする係員の女性。 「どうする?」 「う、う~ん……」 上条に尋ねられ、ちらりと視線を部屋の一角に置いてあるストラップに向ける。 そのストラップはこの遊園地のこのサービス限定の代物のペアストラップ。それもラヴリーミトンとのコラボ品のゲコ太ストラップだった。 限定ゲコ太ストラップ。美琴からすれば喉から手が出るほどにほしい。ちょうど上条と美琴は、正真正銘のカップルでもある。それなのになぜ美琴が即決できずにいるかといえば…… 「あ、あの。本当にキ、キスしてる写真撮らないとダメなんですか?」 「はい。あくまでカップル限定ですので、ご兄妹などの関係じゃない証拠としてお願いしています」 「うぅ……」 そう、これなのだ。カップルである証拠としてキスシーンの写真を撮られる。これが美琴を悩ませていた。 美琴だって上条とキスがしたくないわけではない。むしろ、キスをしたいくらいだ。 何せ告白された日以来、一度も上条と美琴はキスをしていない。いい雰囲気になりかけてもそれは人前だったりでできなかった。 でも、だからといってそういう雰囲気になってるわけでもないのに第三者の前でキスをする、というのは美琴にはいささかハードルが高すぎた。 目の前のハードルを飛び越えないと気がすまない美琴といえども、さすがに恥ずかしすぎるのだ。 ならば、限定ゲコ太ストラップが諦められるのかといえばそうでもないし、そもそもキスをするいいチャンスなのでは? という思いもあって決断できない。 でも、だけど……美琴の中で思考が堂々巡りを繰り返す。やがて迷いに迷った思考は迷路の出口にたどり着く。それは彼女の中にあった最も大きい欲求に沿うこと。 カップルとして上条と行動したい、上条とキスをしたい、ということだった。 「する」 ぼそりと美琴がつぶやく。 「え?」 「と、当麻とキス…する。当麻は……イヤ?」 「イヤ…じゃない」 潤んだ瞳で上目遣いで見つめてくる美琴に、上条が逆らえるわけもなかった。 「は~い。じゃあ、準備は出来てますので、彼女さんから彼氏さんのほっぺにチュってしちゃってくださいねー」 「わ、私からするんですか!?」 頬にするというのは、他人の前でやるには幾分かハードルが下げられた美琴ではあるが、自分から上条にキスをしなければならない、という新たな壁が立ちはだかった。 普段なら、美琴からキスを、しかも人前でやるなんてことは不可能だっただろう。 しかし、美琴の頭はすでに上条とキスをしたいという欲求に染められていた。 「それではいつでもどうぞ~」 「と、当麻……」 どこか熱にうなされたような表情を浮かべる。 上条の方が背が高いので必然的に爪先立ちで、そして体重を預けるように上条の肩に手を置き、頬に自分の唇を軽く押し付けた。 頬に伝わる感触に上条の顔も一瞬で真っ赤に染め上がる。これは、思っていた以上に恥ずかしいのかもしれない。 「はい、OKです。じゃあ次は彼氏さん。彼女さんのおでこにチュッとやっちゃってください」 頬とは言えど、美琴からキスされたためか、上条の思考もすっかりとろけてしまっていたようで、言われるがまま、美琴に向き合い、前髪をかきあげる。 「いくぞ……」 「ん……」 上条がゴクリとつばを飲み込む。なんだかその音がやけに響いた気がした。 美琴は顔を上げ、ぎゅっと目をつぶっている。その顔は真っ赤で目じりに涙がわずかに滲んでいた。美琴も恥ずかしいのだろう。 しかし、その顔がまた可愛くて、上条の心臓がバクバクとやかましく鼓動する。 「ひぅ……」 額に感じる上条の温もりに、くすぐったいような心地よいような感覚が全身を駆け巡り、変な声が出てしまった。 「は~い、OKです。では、プリントアウトしますので少しお待ちくださいねー」 恥ずかしさで固まっている二人をよそに、係員はテキパキと進めていく。顔がにやけ気味なのはこの二人を見ていれば仕方ないのかもしれない。 そんな様子を入り口付近からこっそり覗いていた3人は…… 「うわぁ~。なに、なんなのこれ? なんか凄くキュンキュンするんだけど。あぁ、もう! 御坂さんホント可愛いなぁ」 「甘い、甘すぎるんだよ。うぅ、なんか胸焼けしてきたかも」 「慣れてると思ってたんだけど……、こういう初々しい反応見せられると、なんかこう!」 三者三様にすっかり上条と美琴のぽわぽわオーラにあてられてしまっていたようだった。 係員からカップル優待パスを受け取り、ついでにプリントアウトされたキスシーンの写真も渡された。 さらには携帯に画像データまで送信してくれるというおまけつきだった。上条には美琴から頬にキスされている画像を、美琴には上条から額にキスされている画像を送信してもらった。 美琴は恥ずかしがりながらも早速待ち受け画像にし、何度もその画像を見ては嬉しそうに微笑んでいた。 そして実は上条もこっそり待ち受け画像にしていたりする。恥ずかしいのでそんなことを口には出せないが。 「さて、優待パスももらったし、美琴はどこか行きたいとこあるか?」 「ふぇ!? そ、そうね。あそこはどう?」 あわてた様子で美琴がとある施設を指差す。 また、先ほどの上条におでこではあるがキスされた画像を見てにやけていたので、ろくすっぽ確認もせず適当に指差したのだが、それがいけなかった……。 美琴が指差した先にあったのは、学園都市の技術の粋を集めて作られた『お化け屋敷』であった。 「へぇ~。お化け屋敷か」 「お、お化け屋敷……」 美琴の顔がサーっと青ざめる。 「あれ? もしかして苦手なのか? だったら別の……」 「だ、だだだ大丈夫よ!! 別に苦手じゃないわよ! こ、怖がってなんかないんだからねっ! 早く行きましょ!」 上条に弱いところを見られたくないと思ったのか、美琴は上条の腕を引っ張ってずんずんと進んでいく。建物が近づくに連れ歩幅が少し狭くなり、怖くない、怖くない、などと小さくつぶやいている。 「とうまとみこと、あそこに行くみたいなんだよ」 「え~とあれは……お化け屋敷みたいだね」 インデックスが指し示す施設を佐天がパンフレットで調べる。 「お、お化け屋敷……」 じりじりと麻琴が後ずさる。 「どうしたの、まこと?」 「い、いやあのね、別にね、その……」 視線を泳がせ、おどおどと挙動不審な麻琴の様子にインデックスが首を傾げる。 「はっは~ん。麻琴ちゃん。お化け屋敷、苦手なんでしょ」 「なななな、なんのことでせうか!? 上条さんがお化け屋敷を苦手だなんてそんな子供みたいなことあるわけがないじゃないですか!!」 「まこと。なんだかとうまみたいな口調になってるんだよ」 じとーっと麻琴にいぶかしげな視線を向ける。 「さっ、御坂さんたち見失わないうちにあたしたちも行こっか」 しかし、そんな空気もなんのその、佐天は麻琴を腕を引っ張るとそのままずるずると上条たちの向かったお化け屋敷に引っ張っていった。 「るるる、涙子さん。別に入らなくてもいいんじゃない!? 外で待ってれば!!」 「インデックスちゃんはこういう所は初めてなんだから、楽しんでもらわないとね~。待ってるだけじゃつまらないよ」 麻琴の必死の説得も佐天に一蹴されるのあった。 佐天の顔が楽しそうな笑みを浮かべていたのは見間違いではないだろう。 「そうだけど、そうだけども、そうですけれどもの三段活よ…あぁぁ、待って待って待ってぇ~。そ、そうだ、インデックスさん。あたし困ってる、今凄く困ってるわよ。インデックスさんシスターでしょ。す、救いの手を……」 うるうると涙目でインデックスに助けを求めるあたり、相当追い詰められているらしい。 「そ、そうだね。るいこ、まことが嫌がってるんだよ。無理強いは……」 「インデックスちゃん。もう一度よく麻琴ちゃんを見て?」 佐天に言われたとおり、もう一度麻琴の様子を観察する。 お化け屋敷に行くのが本当に嫌なようで、溢れんばかりに涙をためて、両足を突っ張って精一杯抵抗しているようだ。すがるように潤んだ瞳でこちらを見つめている。 その視線を捉えた瞬間、インデックスをなんともいえないような感覚が襲った。ゾクゾクと何かが背筋を這い上がるような感覚。もっとその表情を見たいという嗜虐的な思い。 (な、何を考えているのかな私は! だ、ダメなんだよ。迷える子羊を救うのがシスターとしての役目なんだよ! こんな感情に流されちゃダメ。まことを救わなきゃ) 思いに飲み込まれないよう、気を引き締める。 さぁ、やめるように言わないと。 「まこと。おばけやしきがどんなものかは知らないけど、苦手だからって逃げてちゃダメなんだよ。きっとこれはまことに与えられた神の試練なんだよ」 まるで聖母のように、慈愛に満ち溢れた笑顔でインデックスはそう言ってのけた。 慈愛の慈の字もないようなことを。 「そ、そんな。待って待ってよぉ~。あぅぅうう」 普段はお転婆な麻琴のすっかり弱気な様子に、インデックスは何かに目覚めてしまったようだった。 涙目の麻琴をそのまま佐天とインデックスが引きずっていったのは言うまでもない。 「ひぅ!?」 「ふにゃ!!??」 お化け屋敷に入ってから、美琴は上条にぎゅっと抱きつき、ずっとこんな調子だった。 ほんのちょっとした仕掛けでも、びくっと身体をこわばらせているのが上条にも伝わってくる。 そんなに怖かったら無理しなければよかったのに、と思う上条ではあるが、強がってても怖がりな美琴がまた可愛くて、これはこれで捨てがたい、なんて思ってたりもする。 「美琴。大丈夫か?」 「だだだ大丈夫よ。こここ、怖くなんてないわよ、こんな子供だまsふにゃっ!?」 ぷるぷると震えながら上条の胸に顔をうずめて抱きついてくる美琴。 怖くない、怖くない、怖くない、と自分に言い聞かせるようにつぶやいているのが保護欲をかきたててたまらない。 (あぁ、やばいやばいやばい。これは違う意味で上条さんピンチですのことよ。なんだよ、この可愛い生き物は。正直もうたまりません) 「と、当麻。離しちゃヤだよ……。そばに…いて……」 今にも泣きそうな顔で、上目遣い。震える声でそばにいてほしい。 (あぁぁぁぁ、俺は、俺はぁぁぁぁっ!!) 上条の本能と理性の世紀の大戦は、お化け屋敷から出るまで続いたのだった。 結局、勝敗はかろうじて、タッチの差で理性が勝ったようだ。後数メートルお化け屋敷が長ければどうなっていたかわからないレベルの僅差の勝利だったらしいが。 佐天、インデックス、麻琴の3人は…… 「はぁ。まさか最初の仕掛けに驚いて気を失っちゃうなんてね~」 と、意識をはるか彼方に飛ばしてぐったりしている麻琴をおぶる佐天がため息をつく。 少しからかってやろうと思ってたのだが、まさかここまで苦手だったとは予想外だった。 どうやら、麻琴は美琴以上の怖がりだったらしい。 「それに、インデックスちゃんはなんか変な方に興味持っちゃってるし、お化け屋敷は失敗だったかなー」 元々魔術の世界で生きていたインデックスにとっては、幽霊の類などのオカルトはむしろ馴染み深い。それを偽者だとしても科学で再現されていたりするのが面白いのだろう。よく分からない用語を言いながら興味深そうに眺めている。 「まー。楽しんでるみたいだしいっか」 持ち前の前向きさで佐天も佐天なりにお化け屋敷を楽しむことにしたのだった。 お化け屋敷から出た上条と美琴が続いてやってきたのは、遊園地の花ともいえるジェットコースター。 なんでも学園都市の技術をこれでもかとつぎ込んだ、外の世界とはかけ離れた代物だ。 「なんだか上条さんは嫌な予感がするのですが……」 なぜか途中で途切れているレールに視線を向け上条が顔を引きつらせる。 上条の視線の先にちょうどジェットコースターが向かってきた。コースターはそのまま速度を緩めることなく途切れるレールに向けて突っ込んでいく。 当然、レールがなければそのまま慣性に従いぶっ飛んでいくわけで…… ギュオォォォと激しい音を立てて錐もみ状態で空を飛んでいくコースター。数十メートルほど空を飛び、その先のレールに再び着地し、何事もなかったかのようにそのまま走っていく。 これはすでにジェットコースターと呼べるものなのだろうか。 「大丈夫? 顔色悪いわよ?」 「なんというか、途中でいきなり止まって落下したり、レールを支える支柱がはずれたりする不幸が来るんじゃないかとな……俺だけならまだいいが、他の人を、美琴を巻き込んじまったら……」 誰かを巻き込みたくない、と口では言ってはいるが、実は単に怖いのを誤魔化しているだけなのには気付かれてはいけない。 「あぁ、大丈夫よ。いざとなったらアタシが磁力で無理矢理レールに本体くっつけるから」 事も無げに言う美琴。 さすがレベル5。これなら万が一があっても安心だね! なんて思ったりする上条ではあるが、それはイコール逃げられないということ。 「まさかアンタ怖いの?」 「ま、まさか何を言ってるんでせうか、このお嬢様は。上条さんが怖い? そんな幻想はぶち殺してやりますよ!」 「じゃあ、問題ないわね。さっさと行きましょ」 先ほどのお化け屋敷での怖がりようはどこへやら、うきうきと上条の手を引いて入り口に向かっていった。 なお、佐天とインデックスは気を失った麻琴を介抱するため、コースターの出口が見える場所で休んでいたらしい。 いくつかの遊具を堪能した上条と美琴は、園内のレストランに移動していた。 時間もちょうど昼時で、いったん昼食兼休憩をすることになったからだ。 食事はなかなかにおいしかった。色々とおしゃべりもできたし満足のいく昼食だった。 しかし、二人の表情は晴れやかなものではない。 その理由は、店員が食器をさげるときに持ってきたカップル優待サービスの特典らしい目の前のコレ。 大き目のグラスに注がれた飲み物、ただし2本のストローが刺さっているアレである。 戸惑いと恥ずかしさで上条も美琴も固まってしまっている。 「ど、どうする?」 緊張した面持ちで上条が口を開く。 「どうするって……その、せっかくのサービスだしさ、あの……」 顔を真っ赤にして答える美琴。 それでも決定的な言葉は口に出来ない。それは上条も同じこと。 互いに答えは決まっている。そもそも飲まないなんて選択肢は存在しない。行動に移せないのは恥ずかしいだけなのだ。 先ほどのキスも大概だが、まだ見ていたのは係員の女性一人だけだった。しかし、今度は公衆の面前である。そこでこんなものを二人で飲んでたら、俺たちバカップルですと宣伝しているようなものだ。 どうしたものかと悩む二人だったが、やがて意を決した美琴がパクリとストローをくわえた。 「ん!」 上条に早くと目で訴える。 恥ずかしさで顔はこれでもかというほど真っ赤だ。 (よ、よし。男、上条当麻、いきます) 大きく深呼吸して、上条もストローをくわえる。 すぐ近くに感じる互いの顔。 (近い近い近い~!) ドキドキバクバクと暴れまわる心臓の鼓動に周囲の音さえ聞こえなくなるほどであった。 そんなバカップルな出来事をよそに、こっちはこっちで違う意味で盛り上がっていた。 場所は上条たちがいる所の近くにある別のレストラン。 窓越しに上条たちを見れるので見失うことがない絶好のポジション。 「おかわりなんだよ!」 顔を上げたインデックスが皿を隣の塔の上に乗せる。 その高さはすでにインデックスの身長を超え積まれている。 「大食いチャレンジやっててくれて助かったわ……」 「あは……は、なんかあたし見ちゃいけないものを見てるんじゃないかな……」 慣れもあり、黙々と自分の分を食べる麻琴と、インデックスの食いっぷりに圧倒される佐天。 他の客や店員も茫然自失といった風体だ。 すでにチャレンジ達成の目標数はとっくの昔に超えている。それでもインデックスは止まらない。 むしろ一般的な程度の大食いチャレンジなど、インデックスにとってはまさに言葉どおりの意味で朝飯前のことだ。この程度では止まりはしない。 「おかわりなんだよ! 早くしてほしいかも!」 また皿の塔が少し高くなる。 もはやその場にいたものは笑うしか出来なかっただろう。 結局、店長が泣いて許しを請うまでインデックスは食べ続けた。 この日、この店は開店以来最高額の赤字を計上したらしい。 時間は流れ、空が茜色に染まり始めた頃、上条と美琴は大観覧車に来ていた。 昼食後も色々と遊具を回りデートを楽しんだ二人が最後の締めとして選んだのがここなのだ。 ゆっくりと高度を上げていくゴンドラ。すでに地上を歩く人々はまるで蟻のように小さく見えてしまう高さだ。 「きれい……」 徐々に夕陽に染められていく学園都市の町並みに魅入られる。 自分たちの住んでいる場所なのに、なんだかまるで別の世界のようだ。 「そうだな……」 そう返す上条が見ているものは風景ではなく、外を眺める美琴の横顔。 なんとなく美琴の顔を見たら視線がはずせなくなった。はずしたくなくなった。ずっと見ていたい、独占したい。 「……本当に、綺麗だ」 「当麻?」 いつもと違う雰囲気の上条の言葉に違和感を感じて視線を移す。 そこにいたのはとても優しげな瞳で自分を見つめる上条。 「美琴……」 上条が自然な動きで美琴の隣に移動する。 美琴はそんな上条の様子を少し不思議そうな表情で見つめている。なんだろう、と小首を傾げてるその仕草が、その表情が、愛しくてたまらなかった。 「美琴……」 もう一度優しく彼女の名を呼ぶ。 綺麗な夕焼けがそうさせたのか、二人きりという現状がそうさせたのか、それともそれらを含め全てが要因か。 「どうかし―――」 暖かい感触に口をふさがれ、美琴はそれ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。 夕陽に照らされるゴンドラの中で二つの影は…… 「あぁ~! 前のが邪魔なんだよ!! いいとこなのに!!!」 「キスですか、キスなんですか御坂さん!! あぁもうなんで、こんないいときに前のゴンドラが邪魔するのー!」 上条たちと1つ挟んだゴンドラに乗るインデックスと佐天が、恨めしげに視線を隠すような角度に来た前のゴンドラを睨みつける。 べたーっと窓に張り付かんばかりの二人の剣幕に、前のゴンドラに乗るカップルが引きつった表情を浮かべているのがこちらからもはっきりと見える。 「ちょ、ちょっと、インデックスさん涙子さん落ち着いて! 前の人なんか変な目でこっち見てるから!!」 前の見知らぬカップルの視線にいたたまれなくなった麻琴が二人の暴走を止めようと声をかける。しかし、興奮状態にあるのか全く聞いてないようだった。 「早くどくんだよ! とうまとみことのキスシーンが!!」 「誰なの、隣だとバレるから1つ離そうって言ったのはー!!」 「インデックスさん、だから落ち着いて、暴れないで! それに涙子さんです。離そうって言ったのは!」 今にも暴れだしそうなインデックスを後ろから羽交い絞めにして拘束する。 影からこっそり両親の初デートを見守ろうと思ってただけだったはずなのに、何故こうなってしまったのか。何がいけなかったのか。どうしてこの二人に振り回されているのか。 分からないことだらけの麻琴であるが、1つだけ分かっていることがあった。それは…… 「とりあえずこの状況は、不幸……よね」 己の不幸体質は健在だということだった。 観覧車から降りた上条と美琴。 二人の顔が赤く染まっているのは、夕焼けに照らされているという理由だけではないだろう。 その少し後ろに、肝心のシーンが見れなかった苛立ちから地団太を踏む佐天とインデックス、そしてどこかげんなりした様子の麻琴がいたのだが、バレなかったのは上条たちがどこか上の空だったからに違いない。 なお、帰宅後、上条は散々インデックスにからかわれ、美琴も後日佐天に細かく追及されるはめになるのだが、幸せで胸がいっぱいな二人は、そのような少し不幸な目にあうとは思いもしていなかった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/未来からの来訪者
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の超荷電粒子砲(プラズマ・キャノン) 第12話 一方通行(4) <絶対能力者進化実験 後日談> 所長:御坂君、お疲れさま。まずは、ミッション・ コンプリートおめでとう。 美琴:デモよりマスコミの報道が多くなりましたが、おおむね想定内でしょう。 所長:まあ、研究所の基金も1兆円単位で増えたし、まずは天井君 以外はめでたしめでたしだな。 で久しぶりに一方通行でも会うかい? 美琴:しばらく冷却期間をおいたほうがいいと思っています。 で実験はどうなります? 所長:妹達の管理は我々が引き継ぐこととなった。 もちろん御坂君にはその必要がないから妹達は殺さない。 あ・・御坂君は知っているかな? 布束君だ。今日からここで働いてもらう。学習記憶装置いわゆる テスタメントの開発責任者で言語学・大脳生理学のプロだ。 妹達の管理をしてもらう。 それと、妹達は調整後全世界の協力機関へ散らばってもらう。 すべて理事長の許可は得ている。安心してくれ。 あそれと、これ辞令ね。 御坂美琴殿、貴殿をプラズマ・応用電磁力研究所 副所長兼主任研究員に 任命する。 所長木原 ** それから常盤台だけど9月末で、卒業していいよ。 もういいだろう。もちろん卒業試験は8月中に受けてね。 常盤台校長には昨日私から連絡しているから。 美琴:では10月以降は、9時から18時勤務 週休2日ですね。 所長:ああ、正式に職員だから。それと、学籍だが、長点上機大学院ということにしてお くから。1月に試験だけ受ければいいから。こっちに専念して。 じゃ。。まずは副所長就任おめでしょう。「御坂美琴」さん 美琴:あ・・「御坂君」でいいですよ。所長 所長:そーかい。いや・・親しきなかにも礼儀ありだ。御坂さんに変えるよ。 美琴:わかりました。所長明日、上条当麻の退院日なので、家まで送ります。 所長:そう明日は1日休みでいいよ。 美琴:いいんですか?研究が? 所長:超能力者だって風邪くらいひくだろう。欠勤届出しときゃいいよ。 美琴:所長ありがとうございます。 美琴は、辞令を鞄に入れ、所長へ深々と90度の最敬礼をした。 そして、所長室の右手でドアハンドルを握り退室した・ そして明日の会う人物の顔を思い描いた。 上条当麻か・・・、 私が介入しなければアンタはどうするつもりだったの? なにもNo Idea で、関係者を「そんな幻想はブチ壊す」て言って ただ右手で壊すつもりだった? でもさ、アンタに救出された妹達の世話なんてできる?猫じゃないのよ? 一万人の人なのよ? 食わせるだけで年間約100億円 衣食住を提供し、居場所を与え、それだけでも、最低年間500億の生計費がいるわ? アンタにそれができる? できないわよね。 仕方ないわね。 あんたはその力に見合う、教育を受けていない。 あんたは、その力に見合う、収入を得ていない。 あんたは、その力に伴う、責任をだれにも追っていない。 つまりね所詮アンタは偽善使いにしかすぎないのよ。それが現実。 アンタの努力は、結局目の前の誰かしか救えない。 アンタはまだ、神様になるには修行が、経験値が決定的に足りないのよ。 上条当麻、私がアンタを変える。 私がアンタを真人間に変えて上げる。 アンタに約束する。 アンタにその圧倒的な力に見合う教養を身に着けさせる。 アンタにその圧倒的な力に見合う収入を与えてあげる。 だから アンタはその圧倒的な力に見合う責任を負わなきゃいけないのよ。 翌日7月25日 午前9時 冥土帰しの医師の病院 美琴:上条さん先日は大変ご迷惑おかけしました。 当麻:あ・御坂さんか・・いや驚いたよ。あんなに簡単に両手切断されてさ・・ 御坂さんて本当強いね。さすが・・1位様だな。俺さ幻想殺しに結構 自信あるんだけど、はあ・・俺の幻想がぶち殺されたな。 なさけねな。 手の事ならいいぞ、いや実験で模擬戦なんだからさ・・ 御坂さんの綺麗な顔に傷をつける可能性もあったわけだし。 それに契約金500万、慰謝料500万もらってんし、まあ手も しっかり治ったのでいいさ。それに正直家計が苦しいので 助かります。 美琴:そうですか・・でも後遺症もなく治って本当よかったです。 当麻:御坂さん、もしよければ、・・また模擬戦に呼んでくれません? なんかあんな惨敗じゃ・・上条さんの小さなプライドはボロボロ なんです。 美琴:そうですか、所長に話はしましょ。ですが。。その前に 上条さんには、片付ける課題があるのでは? 当麻:課題? 美琴:実は私の寮監と上条さんの御担任の月詠先生が知り合いだそうで、 それで、先日月詠先生に今回の実験の件でお詫びに伺いましたところ 開口一番「上条ちゃんには困ったもんなんです」成績は下から数えたほう がいい惨状・出席不足、正直レベル0なんですから、せめてまじめに勉学 だけでもしないと言い訳できません」とおしゃっていました。 それで、「レベル5の御坂ちゃんに、ぜひ上条ちゃんの家庭教師をお願いします」なん て言われてしまいました。 つまり・・来週から上条さんの課題を教えてあげます。 当麻:へ?中学生が高校生の課題? 美琴:・・これは私が先日受けた学園都市大学入試総合模擬試験の結果です。 当麻:えーと御坂美琴、・・604371人中総合1位? 1000点満点で評点999点、平均点495点 偏差値90.3 はあ・・?つまり全部の中・高校生の中で1位て事? は・・容姿端麗・才色兼備・文武両道か ・・でそんな完璧お嬢様が勉強を見てくれる。と。 美琴:そうゆうことです。楽しみにしていただけますか? 当麻:宜しくお願いします。「御坂先生」 美琴:ふふ上条さん「御坂先生」なんて照れますね。 いっそ 「美琴」なんて呼んでいただけません? 当麻:いいんですか?超のつくエリートの御坂先生を美琴なんて呼んで? 美琴:これから夏休みの午前中は一緒なんだから堅苦しいのはなし。美琴と呼んで いただけます?私は「当麻君」と呼びたいので。 当麻:へ・・当麻君、御坂先生 ご冗談を・・ 美琴:当麻君 御坂先生はなしよ ・み・こ・と 美琴と呼んで ・・ダメ? 当麻:ダメ?・・ダメじゃないです。むしろいいです。 美琴:じゃ・・タクシーまたせているから いきましょ。 「当麻君」 当麻:じゃ・・みさ いや美琴いこう。 ふふ・・第一歩を踏み出したわ。 上条当麻・・アンタは私のものになるのよ。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある科学の超荷電粒子砲(プラズマ・キャノン)
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11月22日は何の日? いちゃいちゃ年末年始! 1月2日。上条当麻と御坂美琴の夫婦生活は5日目。元旦で夫婦生活4日目である1月1日は深夜に寝たために起きるのが正午近くになってしまい、御坂家にいる親御さん達も昼は初詣などに出かけていて改めての挨拶だけで終わった。 しかし昨日の夜に美琴は初めて上条のワイシャツを攻略。頭からプスプスと湯気を出すもレベル5の名にかけて4日連続ふにゃーはプライドが許さない。…まぁ、上条の前に最早プライドも何も無くっているような気もするが。 そして今日は神奈川を出て学園都市に戻る日である。レベル0の上条はそれ程外出許可に厳しくされないが、7人しかいないレベル5の美琴はそうはいかない。29日から2日までの5日前後がギリギリらしい。 学園都市から実家に帰ってくる時もそうだったが結構な移動距離なので、門限がある美琴の事を考えると早めに出たほうがいい。 しかし今や愛の巣と化している上条のマンションを美琴がそう簡単に出るわけ――― 「美琴ー、そろそろ出るぞー」 「わかったー」 ―――ないのだが、何故かすんなりまとめてあった荷物を持って玄関にやってくる。あやしい。 「ねぇねぇ。この表札貰って行っちゃってもいい?」 「ん? 別にいいと思うけど…、どうするんですか?」 「…当麻の部屋に―――」 「ダメ」 「うっ」 表札とは美鈴が用意したのであろう『上条 当麻 美琴』の表札。それは部屋のネームプレートみたいに作られた板状のもので、それを外すと『上条』の文字が出てくる。 上条の寮には使えそうにない表札だったが、美琴は「裏に両面テープを張る」だとか何とか言っている。もし仮に隣の土御門に見つかったり他の寮生に見つかろうものなら上履きの中に画鋲だろう。教室の椅子にも画鋲だろう。それは多分痛いので美琴には分かってもらわないといけない。やっと和解したばかりなのでね。 「じゃあ磁石付けて冷蔵庫につける」 「まぁそれくらいならいいけど」 「えへ」 美琴はその表札を大切にゲコ太タオルで包むと上条のバックの中に入れた。何故上条のバックなのかと言うと、美琴のバックは昨日のうちに今日の着替え分だけ出して学園都市の常盤台女子寮に郵送したのだ。やたら本が重いので。 「また来たいね」 「そうだな。夏休みにでもまた来るか」 「ホントに? やった」 「じゃあ行こうぜ。父さん達が待ってる」 「うん」 上条はそう言うと先に歩きエレベーターのボタンを押す。美琴はやはり少々名残惜しいのかしばらく部屋の中を見ていたが、上条に呼ばれたので鍵を閉めて走ってきた。 エレベーターの中で美琴は上条の腕に抱きつき幸せそうに笑っている。 「…どしたの美琴たん」 「えへへ、別に」 マンションの前には既に刀夜達が待っていた。刀夜は寒そうに手に息をかけ暖めており、詩菜は美鈴と何やら世間話でもしてるのか、旅掛はタバコをすぱすぱと吸っていた。 上条と美琴は刀夜達と合流すると駅に向かって歩き出す。その時に通る御坂家もしばらくは見納めだ。改めて見ると隣の家よりも1.5倍は大きい。流石です、旅掛さん。 「美琴ちゃんよく帰りたくなーいってだだこねなかったね」 「そっ、そんな子供じゃないわよ! …あ、詩菜さん。ありがとうございました。これ部屋の鍵です」 「はい。美琴さん、楽しめましたか? また来てくださいね」 「は、はい。絶対来ます!」 「美琴ちゃんもお母さんにそれくらい優しければ―――」 「…何か言った?」 「イイエ。ナニモ」 「ったく…」 「うぅ…、当麻くん。美琴ちゃんがいじめるー」 「え? だめだろ美琴」 「あぅ…」 美琴のプレッシャーに美鈴は上条の後ろに隠れ、弱点をつく。今この状態なら美琴はグー、美鈴はチョキ、上条はパーなので美琴は上条に勝つことは出来ない。 上条はそのパーの右手で美琴の頭を優しく撫でると美琴はもう戦意喪失してしまう。美鈴には子供じゃないと言うが、美琴はまだまだ頭を撫でられただけで喜んでしまうお子様だったのだ。 ち、違うわよ? 私は喜んでるんじゃなくて…そう! 効かないから! 当麻の右手には何も効かないからごにょごにょ…。 「あはは、美琴ちゃんは相変わらず当麻くんには弱いのね。これから何かあったら当麻くんに助けてもらおう」 「なっ…! ひ、卑怯よそんな―――」 「あー、当麻くんたすけてー」 「落ち着いて、美琴たん」 「うっ」 もう美琴は美鈴に勝てる事はないだろう。もともと美琴の考えてる事をピンポイントで当ててくる母の勘に加え、美琴が手を出せない上条も味方につけられてはもうあうあうするしかないのだ。あうあう…。 「ここまででいいよ、ホームまでだとお金かかるしさ。ありがとな」 上条は11月22日の時に言ったような言葉で見送りを感謝する。時刻は昼前な事もあり、皆初詣に行ってるのか駅には疎らにしか人はいなかった。これから遠出をする人は少ないだろうが、帰省を終えた人なのか大きなバックを持ってる人などがいる。 時刻表を見るとあと5分後くらいに丁度いい学園都市方面の電車が出るらしいので、これに合わせる事にした。 「じゃあ…、また夏休みにでも帰ってくるから」 「おぉ、待ってるよ。元気でな、当麻。美琴さん。体に気をつけて」 「元気でね当麻さん。美琴さん」 「は、はいっ。お世話になりました! また必ず―――」 「美琴ちゃん…しばらく会えないパパにさよならのチュいでででででっ!」 「ま・た・ね」 「うぅ…」 「私も大学で近くに行ったら遊びに行くねー。んー、そうね。その時は当麻くんのお部屋に泊めてもらおうかな」 「なっ!? そ、そんなのダメよ!」 「何で美琴ちゃんがダメなのよ」 「うっ…そ、それはその……あぅ」 「あはは、ほら。長旅なんだからトイレ行っといた方がいいわよ。行った行った」 「はい。じゃあ父さん、母さんまたな。美鈴さん、旅掛さんもお元気で」 「わっはっはっ! 俺たちはいつも元気さ。美琴ちゃんの結婚式で晴れ姿を見なきゃいけないしね!」 「けっ、けっこ―――! …ふにゃー」 「お、おい美琴…、そ、それじゃまたー、あははー」 「あはは、美琴ちゃんをよろしくねぇー」 そして上条は美琴をずるずると引きずり刀夜達と別れホームに消えた。電車に乗る前にトイレに行っておいた方がよかったのだろうが、美琴は絶賛ふにゃー中だし諦めよう。 エスカレーターを上がると係員やホームのベルが電車到着が間近なのを知らせてくれる。やってきた電車にも疎らに人が乗っているだけで、これから乗る乗客と合わせても空席が目立ちそうだ。 上条は二人用の席に陣取ると、美琴を寄りかかれる壁側にする。…が、美琴は上条の肩の方がお気に入りなのか壁に寄りかかる事はない。こっちの方が温かいし気持ちいいしー。えへ。 やがて電車のドアが閉まりゆっくり走り出すとホームでは見えなかった外の景色が見えてくる。ふと外を見ると、ネット状の壁の向こうで美鈴が手を振ってくれていた。上条も軽く手を上げるとそれに気付いた旅掛や刀夜、詩菜も手を振ってくれているが電車は徐々にスピードを上げ、すぐに美鈴達が見えなくなってしまった。さようなら神奈川。さようなら父さん母さん旅掛さん美鈴さん。また夏休みに。 上条と美琴は電車に揺られ学園都市に帰ってきた。中に入る時にゲートでIDの確認やら何やらを精密に検査するが、レベル0の上条は美琴程念入りではない。なので一緒に入っても美琴は上条より後にぐったりと出てくるのだ。 美琴は外に出た時と同じく「これだけは面倒くさいわね、ホントに」と溜息を吐くしかなかった。 昼前に神奈川に出た上条たちが学園都市に入り、第七学区に着いた時には日はすっかり沈んでいて、美琴の門限までもう少しだった。 「じゃあ行くか。寮まで送るよ」 「大丈夫」 「え? そ、そうか? じゃあ…、また―――」 「当麻の部屋行くから」 「なー…んだって?」 「今日は当麻の部屋に泊まる」 「はい? だってお前門限があるだろ?」 「ふふん。実は学園都市外への外出は5日だけど、寮には新学期前日まで地元に帰るって言ってあるの」 「おまっ―――! …そんな事していいのかよってか出来るのかよ」 「寮監には何も言われなかったけどー?」 「だ、だから実家の時すんなり帰ったのか…。おかしいと思ったぜ」 「えへ」 美琴はしてやったりな顔をすると上条の腕を取り、馴染みのスーパーへ向かった。実家に帰る前に魚とか買い溜めしておいたけど、今は三が日なのでセールもやっていて安いだろうと考えたのだ。この夫婦生活で、お嬢様の美琴もお金の感覚を相当になおしたらしい。ちょっとづつだが、いい奥さんに向かっているようだ。 上条も夫婦生活で慣れたのか以前程は美琴を泊めてはいけないと思わなかったらしく、しかも常盤台の門限も無いのなら美琴は何を言おうと無駄なのも知っていたのでお泊りを認めたのだ。自分が実家に帰ってる間に小萌先生にお世話になっているインデックスには冬休みの間はそこにいてもらおう。 「さっ。今日は何食べたい? セール中だし…、ちょっとだけ奮発しちゃう?」 「そうなー…、じゃあ…シーフードカレー!」 「…アンタカレー好きねぇ」 「美琴が言った甘いけど辛いカレーが食べたい」 「あは、いいわよ作ってあげる。この五日間で相当煮込んであるからとびっきりの甘辛になってるわ」 「期待してるぜ、美琴たーん」 「たん言うな」 スーパーはやはりと言っていい三が日セールがやっていて、お節の食材やら蟹やらが大売出ししていた。嬉しい事にその食材の裏でもちゃんとしたセールがやっており、普段のこの時間なら学生はいないのだが今日はまだまだ買い物客で溢れていた。 上条と美琴はカートを引いて青果や鮮魚コーナーを回る。シーフードカレーにするなら野菜やら海老などが必要になってくるので割引のやつを狙わなくては。 神奈川と学園都市では単価が違うのか、美琴はうーんと悩んで商品を選ぶ。もちろんセールをしてるので安いと言えば安いのだが、神奈川に比べたら魚介は高いようだ。主婦美琴は買い物上手になっていた。しかしこのままでは魚介が入らないシーフードカレーになりかねないので、上条は冷凍食品に目をつける。本格的なものでなくとも安いならそっちの方がいいし、海老などもないよりあった方がいい。 夫婦生活が終わってもバッチリ夫婦な上条当麻と御坂美琴。 「だっはっ! 重かったーっ!」 「お疲れ様。今日は私一人で作るから当麻は休んでて」 「ありがとー、美琴たーん」 「たん言うなっつの」 上条と美琴は学生寮に帰ってくるといつものやりとりをする。上条は両手いっぱいの戦利品入りの袋をキッチンに、そしてこれからは美琴の腕の見せ所。愛しい旦那に美味しい料理を振舞わなくては。 今日のメニューはクリスマスの時に話していた美琴特製の辛いんだけど甘いカレー。美琴はクリスマスの時に指輪の一件でなかなか料理に取り掛かれなかったが、もうその件についてはクリアしてるので大丈夫だ。指輪を外してネックレスに…、でも涙目。 そのカレーは作り方は一緒だが今日は究極のスパイスがある。そのスパイスは5日間の夫婦生活で深めた絆で、一度料理に入れようものなら全く別の味になるだろう。それに今回はご飯のセットも忘れない。 料理を作ってる美琴はどこか楽しそうで、鼻歌を歌いながらアク抜きをしてたり、おたまでかき回したりしている。上条も美琴の歌をお供にテーブルの上を掃除していた。テレビのリモコンは床に、漫画は本棚に、教科書は鞄に、課題はゴミ箱……あ。 そして暫くすると美琴がお盆に乗せ二人分のカレーライスを持ってきた。 「うんまそーですね」 「ま、まだ食べてみないと」 「じゃあ…、いっただっきまー…んむっ」 「…」 「もぐもぐ…」 「あぅ…」 「…ごくん」 「あぅあぅ…」 「…美琴たん」 「ふぇ?」 「結婚してください」 「…ふにゃー」 上条当麻は美琴特製シーフード甘辛カレーの前に屈した。その後はふにゃふにゃしてる美琴をなだめながら涙を流し「うまいうまいぞぉーっ!」と、どんどんかっこんでいく。そのカレーは上条のみ味わう事が出来る究極の味。とても温かく、甘く、それでいて辛いカレーだった。美琴たん、上条さん家に米だけはあるっていってもこんなすぐにもぐもぐ…。 御坂美琴は料理の面でもどんどんとパワーアップし、着々と上条美琴への階段を上がっているようだ。 「いやっ! 絶対帰らない!」 「絶対帰れ!」 「帰らない!」 「ダメったらダメです!」 「ふぇぇぇぇ……」 美琴はだだをこねていた。今日は学園都市に帰って4日目で明日から新学期という日。この四日間もばっちり上条の部屋にお世話になっていた美琴は、今日は常盤台に申告した帰宅日なので帰らなくてはいけない。神奈川の実家から帰る時に美鈴の「よく帰りたくないってだだこねなかったわね」発言に「そんな子供じゃないわよ!」と堂々と言い放ったのだが、もう今や完璧に子供に退化しているようだ。 実家から出る時にはまだ美琴の中には上条との同棲ライフが待っていたのでまだ持ちこたえられたのだが、今日からは常盤台の門限上お泊り無しの生活が始まる。 なので美琴はだだをこねていたのだ。上条なら何とか言えば泊めてもらえると思ったのだが、美琴の予想に反して上条はダメの一点張りだ。上条サイドからしたら門限がないから泊めてあげてただけなので、今日は帰らせないと美琴にも悪いのだ。 「美琴たん。分かってくださいよ、もういっぱい遊んだじゃないですか」 「まだぁ…、もっどいっばいあぞぶー…」 「じゃあ明日の放課後にでも―――」 「ぶぇぇぇ…」 「あああぁぁ…わーったよ、しょうがねぇなぁ……」 「ぇぇぇ…?」 「寮まで送ってやるから」 「ふにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?????」 美琴は上条の正面から無視すんなやコラー!タックルを決め、床に押し倒した。不意をつかれた上条は久しぶりのタックルにぶふっと言う。その後美琴は真っ赤な顔を見せるが、あの時とは大分表情が違う。あの時は恥ずかしさ100%って感じだったが、今回は…えっと、うん。とにかく恥ずかしくて顔を真っ赤にしてるわけではなさそうだ。 上条も何とか泊めてあげたいと思う。この部屋に帰ったらやろうとしていた冬休みの課題も美琴先生の教えで2日とかからなかったし、思わずプロポーズしてしまう程のおいしい料理も食べさせてもらった。…が、しかし! くっ…! なので上条は秘密兵器を出す事にしたのだ。 「美琴」 「…ふぇ?」 上条がポケットに手を入れてゴソゴソとしだすと、一度見せた真っ赤な顔を上条の胸に押し当てていた美琴もゆっくりと顔を上げる。もう上条のシャツは美琴の涙でぐっしょりだった。 「これなーんだ?」 「…!」 上条がポケットから出したもの。それは――― 「それ…、鍵…よね」 「そう。この部屋の合鍵です」 「!!!」 「さぁどうする美琴たん! 今日帰るのならこの合鍵をあげようじゃないか!」 「うっ…! 今日泊まって、その鍵も貰うっていうのは…?」 「そんなのダメに決まってんでしょ!」 「うぅ…、でも…」 「あー、もう選ぶ時間がー」 「ふぇ!? あああああああああのっ…!」 「はい。美琴たん」 「…………………………………………………………………………………鍵、ちょうだい」 「…じゃあ今日は帰るんだな?」 「……うん」 「鍵貰ったからって明日から泊まるってのも無しですよ?」 「…」 「あ、あれ? 無しですよ?」 「…うん」 「じゃあ…、ほら」 「えへ」 こうして美琴嬢は帰っていったのだ。部屋は違えど、この指輪ある限りお互い好いている限り上条美琴に変わりはない。 か、彼氏が合鍵をくれるって事はアレでしょ? いつでもおいでって事でしょ? えへ、えへへ。 ――――が、そんな上条美琴さんにも立ちふさがる壁があった。それは常盤台女子寮208号室にて起こる。 その壁とは美琴の久しぶりの帰宅に歓喜する白井ではなく(お預けを喰らって開放された犬のように盛んになってはいるが)寝る時の、そうパジャマに問題があったのだ。 上条の寮に寝泊りする際にはやはりと言っていいワイシャツを借り上条の隣で彼を抱き枕にして寝ていたのだが、今日は上条もいなければワイシャツも無い。こんな状態ではとても寝れたもんじゃない。 「(ほ、ホントに寝れない…。どうしよう…)」 美琴は冗談ではなく、本当に寝れないらしい。お風呂に入った後だし、上条の匂いがなくなってしまったのだ。美琴は家事においてはパワーアップしたが、対上条属性に関してはこの上なくダウンしていた。 冬の寒さも相まって一緒にいるだけで感じる上条の温かさも、全身を包んでくれているようなワイシャツも無い。美琴は関心した。実家に帰る前の自分を。アンタすごいわね。どんな能力者? 「(うぅ…、当麻に会いたい…)」 美琴は何度も何度も寝返りをうっては当麻当麻とモジモジする。体も分かっているのだ。今の自分には上条当麻が足りないと。でも今日は寮からは出れないし我慢するしかない。美琴はこんな状態になるなら上条のワイシャツだけでも封印した方が良かったと多少なりとも自分に後悔している。そういえば実家に帰った2日目でも美鈴に注意されたような…、あぅ…。 だって気持ちいいんだもん。全身で当麻を感じれるんだもん。あうあう…。 ところで隣のベッドの白井はどうしたのだろうか。寝る前に土産話(つまりは上条との生活の話)をして以来真っ白になって動かない。まぁ…、変に襲われるよりはマシだけどさ。 すると寝れずにいた美琴のゲコ太携帯が何かを受信したのか着信音を奏でた。美琴はビックリしたが、白井を起こしてしまうと何かと面倒なのでイントロクイズ並の速さで着信音を消す。その美琴の顔は頬を染め、笑み一色だった。何故か。それは聞き慣れた上条当麻だけのメール着信音だったからだ。 美琴はドキドキとそのメールを開くと――― Time 2011/01/07 01 22 From 当麻 Sub ――――――――――――――― おやすみ美琴 「えへ」 上条のメールはたった6文字だったが、今の美琴には十分な内容だった。今寝れば上条と一緒の夢を見れるかもしれないし、自分が寝れないのを分かっててメールしてくれたのかもしれない。 それは美琴には分からないが、そう考えるだけで離れていても上条はずっと傍にいると感じさせてくれる。 美琴は小さく笑うと上条に返信し、画面を待ち受けに戻した。そこには内緒で撮った上条の寝顔があり、美琴に安心を与えてくれている。さらに安心で思い出したのか美琴は携帯を閉じるとクリスマスの時にプレゼントされた指輪に手をかけた。これこそが美琴にこの上ない安心を与えてくれる。 指輪を見てさらに頬を染めると、美琴はゆっくりと瞳を閉じた。さっきまでの寒さはない。さっきまでの寂しさもない。今は常盤台のベッドの上にいるが、美琴は上条を感じる事が出来る。 「えへへ」 美琴はもう一度小さく笑うと心地よい睡魔に襲われ夢の中へと入っていった。その安心を感じるようにしっかりと左手を抱きしめて。 おやすみ、当麻ぁ…。 こうして上条当麻と御坂美琴のいちゃいちゃ年末年始は終わりを迎えた。机の上には先程上条から貰った鍵と一緒に美琴のお気に入りゲコ太キーホルダーがキラキラ輝いていた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11月22日は何の日?
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小ネタ げんてんかいき 美琴「いちゃいちゃするわよ!!」上条「いきなりどうしたんだよ」美琴「最近私達、いちゃいちゃしてないじゃない。というか殺伐としてるわよ」上条「うーん、そうか?」美琴「そうよ!!私と当麻が命を懸けてバトったり悪の研究員を消し炭にしたり首から下が潰されたり!!」上条「いやそんな事一度もないからな?!てか何かエグいよ!?」美琴「それもこれもはりねずみの奴が鬱展開しか考えて無いのが悪い!どういうことよ夢に私が出てきて当麻が居ないって、昔見た上琴の夢の続きはどこ行ったー!!」上条「ストップ美琴さん!これ以上メタ発言しないで!!」美琴「たとえ夢でももっと遊園地でデートしたいし二人でラジオ出演したい!というかもっといちゃつきたい!!」上条「わかった。わかったから落ち着いて!!」美琴「……じゃあ、いちゃいちゃしてくれる?」上条「ああ、美琴の気が済むまでしてやるよ」美琴「具体的にどうすればいいかわかってる?」上条「えーっと、こうか?」ギュッ美琴「……よろしい」美琴「じゃあ今度は撫でてほしいなー、なんて」上条「まったく、我儘な姫だことで」ナデナデ美琴「エヘヘー」ニパー美琴「ねぇ当麻」上条「ん?」美琴「ん」chu*上条「ーーーーえ、あ、あわわわわ」////美琴「大好き」上条「お、俺もだ、大す、好きだ、ぞ----ふにゃー」プシュー美琴「と、当麻が壊れたー!!」
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある底辺と頂点の禁断恋愛 「何しに来た、お前は……っ」 「当麻、俺はお前のこと。弟みたいに思ってるんだぜ。今でもな。そりゃ俺に初めて話しかけてくれたのはお前だしな」 「……後悔してる。今は」 「まぁ普通の精神ならそうだろうな。六年前の内乱を滅茶苦茶にしたのは俺とお前だしな」 上条は撃たれた場所を抑えながら、キッと垣根を睨みつける。 「まぁこんな昔話をしに来た訳じゃねぇ。なぁ当麻。俺の作る暗部組織『スクール』に入らないか?目的は 学園都市の転覆……そうだな。つまらねぇ格差社会体制の崩壊だ」 「……入る訳ねぇだろ!」 「だろうな、でもな。俺のほうが必要性の高い情報を持ってる。木原数多とかよりな」 「な、なんでそれを……」 垣根はニヤリと上条へ笑いかけた。 背筋が凍り、上条は全身の力が抜け椅子へ座り込んだ。 「木原数多はただ、上条当麻と手を結んだっていう事実が欲しかっただけだぜ。上の連中はお前の事はどうとも思っていないが学園都市のどこかに居ると言われてる 元学園都市統括理事長のアレイスター=クロウリーを警戒してる。 アイツはプランとやらを完成させたかったみたいだが、虚数学区の生成や幻想殺しをうまいポジションに置けなかった事もあり、今は訳わかんねぇ組織に乗っ取られてる。 お前は妹達(シスターズ)……クローンを助けたい。俺は学園都市体制の崩壊。俺はそれに協力してやる。その代わりにお前は俺の手下になってもらう。 何年我慢した。毎日、ペットの餌みたいな量のご飯を食べて、キノコが生える家へ住んで。それも学園都市が作った『ディストピア』のせいだろ?お前は一番の犠牲者だ。 なぁ、俺と組まないか?上条当麻」 「……分かった。でもクローン達を助けるのは手伝ってもらう」 ディストピア。ユートピアとは相対的な意味合いを持ち、管理社会体制の事だ。 上条の『大罪人』システムはディストピアであり、風紀委員などの警備組織が無いのもそのせいだ。 万引きなどしない。詐欺などしない。暴行などしない。何故なら『罪人』になるからだ。 誰も『罪人』には成りたくない。だから警備組織は存在しない。そして上条は学園都市でも3人しかいない『大罪人』。 彼らに『犯罪を行うなどの概念がない』。 これは完成された管理社会。平凡で能力開発を行い、犯罪者などいない。そんな理想郷(ユートピア)に偽装した幻想郷(ディストピア)だ。 しかし、上条は今の学園都市の制度を変えたいとか、差別に苦しむ人々を開放したいなんて高尚な事は考えていない。 ただ、無力に処分されていく『人間』を助けたいだけだ。人形じゃない、人間だ。女の子だ。 そのために上条はスクールに入った訳じゃない。そんな意志は垣根にも伝わった。 垣根は微笑みながら上条に一枚のメモを渡して、待合室から消える。 「次の人どうぞー」 「あ、はい」 診察室で待っていたの蛙顔のおじいさんだ。一応、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)と呼ばれていて、医療界でも有名な医者らしいが。 上条は包帯で止血をしていて、冥土帰しは少し驚いた様な表情を作った。 「血は止まってるね?今から、縫うから三○七号室へ来なさい」 「縫うんですか……」 「何当たり前の事を言っているんだい?君、そのまま放置してると化膿したりして右腕を切り落とさないといけなくなるんだけど。それに 顔も青いし、血もかなり失われてるだろう?輸血もしないとね」 「わかりました……」 第四話 『暗部組織の暗躍と意外な人物達との戦争』 「何してんのアンタ」 「……すみませんでした」 「銃弾で肩を撃ちぬかれるって、何しでかしたの?ったく……まぁ良いわ」 「御坂……?」 御坂はハァ、と溜息をつくと椅子へ座った。 「白井と佐天さんはどこにいった?」 「……出かけてるわ。確か買い出しって言ってた」 「そうか」 「ああ、そう。1つだけ言いたい事があるの。くれぐれも、気をつけてね」 「?」 上条はハテナマークを浮かべたまま、自室に戻っていく。 次の日、御坂美琴は上条の部屋へ突入した。 「おっはよー!」 「うわわっ!?」 上条はその大きな声に驚き、目を覚ました。彼の枕元にある時計の針は八時をさしていて、大遅刻だった。 まだ休日だからよかったものの、4時半に起きなければならないはずが、3時間半後の8時に起きてしまうのだから。 「すまねぇ……」 「いいわよ、それより。アンタに手伝って貰いたい事があるんだけど」 「なんだ?」 「買い物に付き合いなさい。生活用品諸々をね」 上条はボサボサの髪の毛をクシャっと押さえつけて、いいよ、と返事した。 ていうか、撃たれた次の日に「買い物に付き合え」とは少し無理強いるなぁと上条は皮肉というか露骨な嫌味を心のなかで呟く。 しかし思う。撃たれたというのに、余りにもサバサバしてない?と。 上条は御坂美琴が笑顔で部屋から出て行ったのを確認して、寝衣を脱ぐ。 これは買い物という名のデートだ。上条はそんな心意気で望むらしく、いつも犬のように扱われているような気がする上条としてはまずは人間として意識してもらいたいという 気持ちが強かった。数少ない衣服からオシャレなものを選んで着ていく。 「こんなモンか」 上条は着替え終わり、服装をもう一度鏡で確認し直す。 トントン、と軽い足取りで降りていく階段。上条は御坂へ「行くぞ!」と言った。 携帯電話で誰とメールをしていたらしく、「送信完了っと」と小さく呟くと玄関前まで歩く。 上条はその御坂の匂いがとても甘い匂いだと気づいて、少し顔を赤くした。 常盤台中学校は制服着用がルールとしてあり、私服は見たことが無かった。 まだ日が頭上にあって、蝉の鳴き声が更に暑く感じさせる。昨晩に降った雨は既に乾き、湿気と気温の高さが注意された。 7月2日、もうすぐ真夏に突入する様な時期だ。ここに来てから二週間足らずが過ぎようとしていた。 御坂は「あっつー」と愚痴をこぼす。上条もまた、右手で雲ひとつ無い空から降ってくる光を遮っていた。 「早く行きましょ、暑いわ」 「そうだな……」 「第一の目的地はセブンスミスト。靴下買いに行って……」 「そうか、早く行こうぜ。暑すぎる……」 「そうね……」 御坂は特に気にした様子は無かったが、上条は始終御坂の私服をチラ見しては悶えていた。 可愛い、というか似合い過ぎてるらしく悶えている。その様子を見て御坂が「何してんの」と尋ねる。 「い、いやっなんでもない!」 「そう?体調悪い?」 セブンスミストでは涼みに来ている人も少なくなく、中にあるカフェは人で埋め尽くされていた。 御坂は贔屓している量販店に向かい、靴下と数足買ってベンチに腰を下ろした。 「次、どこ行くんだ?」 「隣の学区にあるアクセサリー店。今から行ったら夕方くらいになるかも」 「そうか、それなら言ってしまおうぜ」 「分かった、ちょっとジュース買ってくるからアンタはここにいなさい!」 御坂はブランド物の高級財布を持って近くの自動販売機に向かっていく。 それから数分した頃、上条の手にはきなこ練乳とゴーヤプリンのゲテモノジュースが握られていた。 彼女の手にはみりんコーラが握られていて、苦虫でも噛み潰したような表情を浮かべて「失敗ね……」と呟いた。 きなこ練乳のプルタブを開けて、一気に流しこむ。悪くない、きなこの甘さと練乳がうまくマッチしていた。 しかし手元にあるゴーヤプリンはどう考えても地雷だが。御坂は上条の手からきなこ練乳を奪い取ると一気に流しこんだ。 「お、おい!?」 「アンタがボサっとしてるから悪いのよ」 少ししか残っていないきなこ練乳を飲むか、飲まないか葛藤する上条。 これに口をつけたら間接キスじゃないか?と思い飲むか飲むまいかそう考えているのだ。 まぁ何の躊躇いもなく飲んだ御坂には異性の対象としては見られていないのだな、とがっかりする。 (なんだ、コレ。俺ショック受けてる?) ハンッ、と鼻でその感情を笑い飛ばす。 そんな訳がない。上条は熟考に末にきなこ練乳の残りを飲み、カンのゴミ箱に入れた。 「さて、そろそろ行きますか」 「だな」 環境保安上安全科学総合施設郡。別称、第九学区。 ストレージロードという街にある学園都市の環境や天気などを研究する分野が集まった施設群。 その研究中に生まれた鉄鉱石の貴重な部分のみを摘出し、組み合わせた魔法のキーホルダーを探しているらしく、一般販売はされていないらしい。 そこまで行くには電車かモノレールしかなく、二人はモノレールで施設群まで向かった。 しかしお目当てのキーホルダーは無く、実は三日前にとある客が見つけて買っていったらしく完全に無駄骨だった。 「……おっ?御坂このペンダント可愛くない?」 「……可愛いわね、買おうかな?」 「御坂、俺が買ってやるよ。ま、まぁ?なんだかんだ世話なってるしこんな時じゃないと恩返し出来ないだろ?ほら1500円。 買ってこいよ」 「いいの?」 「ああ、俺ちょっとトイレ行ってくるな」 上条は照れ隠しに店の外に出る。突然、バン!!という銃声がした。 暗い裏路地、日が暮れかけているということもあり殆どその状況を目指できなかった。 しかし、上条は持っていた買い物袋を地面に落とした。暗い裏路地に居た二人の影。 垣根に貰った護身用の拳銃を少女達へ向けた。 「な、なにしてんだ……それなんだ……おい、おいッそれはなんだって訊いてんだァぁぁああああ!!!!」 「なによ……ちょっとだけ格好良いとこみせてさ……」 顔を赤くして御坂は会計を済ませる。 初めて彼を格好良いと思った。袋に入ったペンダントを満足した表情で眺めていた。 バン!と外から銃声が聞こえる。御坂はしまった、と思いその音源を探して店を飛び出した。 計算外だった。考えてもいなかった。今日の反乱分子の処分はココだったじゃないか。 「しまった……」 * 「あなたは……」 「上条さんですのね?」 「白井、佐天さん!そこに居る男はなんだ……おい。死んでんじゃないのか?」 「まだ息はありますわね。もうじき死ぬとは思いますが」 白井黒子は鉄矢をクルクルと回す。佐天の手にはショットガンが持たれていて何をしたかなんて一目瞭然だった。 一つ言える事は垣根帝督や木原数多と同じ『場所』にいるということ。 学園都市の闇に居る少女たち。だかえあ最近、屋敷に居なかったのか。何をしていたんだ。そんな物はわかってる。人殺しだ。 手慣れた手つきでショットガンをリロードすると上条へ銃口を向けた。 怯むことなく上条も佐天に拳銃を向ける。 「チーフ、その拳銃どこで……」 「……なぁ御坂は関わってるのか」 「それは……」 そう言いかけた瞬間、拳銃は真っ二つに裂けた。砂鉄、電気を帯びて一層攻撃力を増した砂鉄だった。 一秒に数千回とチェーンソーの様に振動する砂鉄は拳銃を切り裂いて、上条の首元へ突きつけた。 「御坂……ァ!!!お前も……関わっていたのかよ……なぁ御坂あああああ!!!!」 「佐天さん、黒子。もうコイツはクビにする。だから……殺さないで」 「どういう事だよ!?なぁああ!!!」 「アンタは……見てはならない物を見た。せめてもの情け、もう。関わらない方がいい」 ゴッと骨が鈍い音をたてた。上条は力なくその場に倒れた。 「ごめんね……」 「お姉様。報告が、木原数多によると10000号から11000号までの処分は延期となり、開始日は未定ですの」 「……そう。良かった………さ、戻りましょ」 御坂はペンダントを握って、その場に上条を置いて出て行く。 せめてもの情け、それが『関わらせないこと』。それだけ御坂達は深い位置にいるのだと感じさせる。 しかし計算外といえば、既に上条は彼女達より深く、そして強い『スクール』に所属していることだ。 学園都市の数少ない『暗部』は動き出す。彼女達『プライム』は妹達の処分撤回の為。『スクール』は学園都市の崩壊。そして第四位の『アイテム』は何を目標とするのか。 プライムは四人だ。その残りの1人に、『アイテム』の目標の鍵があった。 「当麻、第三位にしてやられるとはなぁ。心理定規、適当な下部組織呼んで当麻をアジトまで運ぶぞ」 「はいはい、呼べってことよね?」 (上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある底辺と頂点の禁断恋愛
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox 九月の狂想曲 常盤台中学の待機所に戻った御坂美琴は上条当麻と仲良く厳重注意を受けた。 美琴達に厳重注意をしたのは美琴の担当教諭で、厳重注意を受けた理由は『男性の腕に抱き上げられてその姿が世界中継されるなど常盤台の学生としてあるまじき行為』で、厳重注意の内容は『他の生徒の父兄が動揺するので以後こういった行動は慎むように』だった。 常盤台中学は世界有数のお嬢様学校として各地より優秀な子女を預かる立場であり、お嬢様学校であるが故に品性、品格にいたくこだわるのが校風なのだから美琴達が叱られても仕方のないことだった。 何一つ言い逃れのできない状況で上条が『大覇星祭ということで浮かれていた、美琴が「借り物」であったため調子に乗りすぎた』とひたすら頭を下げたため、お説教は『気をつけるように』との定型句で打ち切られた。 だが美琴としては、先ほどまでの甘い気分も上条からのサプライズも粉々に吹っ飛ばされてげんなり、という気分だ。 担当教諭の言い分は正しいし、美琴も肯定する部分はある。 それでも叱るなら自分一人にして欲しかったと美琴は思う。 調子に乗ったのは美琴で、上条は美琴のわがままを聞いただけなのだ。 そして何より気に食わなかったのは、上条の去り際に担当教諭がぽつりと『ふん、無能力者(レベル0)が』と呟いた事だ。 常盤台中学の入学条件は最低でも強能力者(レベル3)と決められている。 つまりそれ以下の能力者はどれだけ人格的に素晴らしかろうが相手にしない。 無能力者など、常盤台の教師からすれば超能力開発という時間割り(カリキュラム)から外れた落ちこぼれに過ぎないのだ。 美琴もかつては無能力者(というよりはスキルアウト)をそう見ていたところもあり、あまり強く言えた義理はないが、 それでも。 その小さな事が、頭にきた。 心の底から。 そのたった一言で上条を切り捨てる教師の態度が許せなかった。 教師も、常盤台中学も、あるいは統括理事会でさえも『知らない』妹達と美琴の問題を、ただ一人命をかけて救ってくれたのはほかならぬ上条なのだ。 無能力者だから切り捨てても良いのではない。無能力者は無能力なんかではない。 無能力者が蔑まされるようなスキルアウトに走るのは個々の事情であり、無能力者だからと十把一絡げに扱わないで欲しい。 相手が自分の学校の教師でなかったら、上条の何を知っているといるんだと美琴は即座に雷撃の槍を叩き込んでいたかもしれない。 そんな事をすればもっと大事になるし、何より必死に頭を下げてくれた上条の顔に泥を塗る。 常盤台中学の模範生としても、学園都市第三位の超電磁砲としても、それ以前に上条当麻の彼女として絶対に取ってはならない行動だった。 もしも自分が常盤台中学の生徒でなかったら、と美琴は思う。 これが例えば初春飾利や佐天涙子の通う柵川中学校だったらここまで騒ぎにはならなかったかもしれない。 あるいは、美琴がとある高校の一生徒だったなら。 こんなところで上条が日頃口にする『中学生と高校生』の歪んだ例を目の当たりにして、美琴はほんの少し唇を噛んだ。 とにかく、後で上条に謝ろう。 美琴はそう思って、そこで不意に視線の束を背中に感じた。 恐る恐る背後を振り返ると、 「……へ?」 常盤台中学の生徒達―――早い話が美琴のクラスメートや下級生が熱い視線で美琴を見つめ、ぐるりと取り囲んでいる。 彼女達は常盤台中学『学内』学生寮の生徒だった。 つまり、美琴を取り囲む少女達は正真正銘箱入り娘達であり、美琴とは違う方向性で筋金入りのお嬢様達だった。 「あ、あれ? みんな何か私に用? ああ、えっと見苦しいとこ見せちゃってごめんね? ……あれ? 違った?」 お嬢様集団が醸し出す異様な雰囲気にたじろいだ美琴がひとまずの謝罪を口にすると、 「御坂様!!」 「私、感動しました!」 「素敵ですわ御坂様!!」 少女達は一様に感動や興奮を口にする。 美琴は訳が分からず首を傾げて、 「……はい?」 「御坂様と殿方がお互いを想い合いかばい合うお姿に私達とても感激いたしました! これがアガペーなのですね!! 愛って素晴らしいですわ!!」 「あの。アガペーって……」 肉体的な愛を『エロス』と名付けるのに対し、精神的な愛は『アガペー』と呼ばれる。アガペーとは見返りを求めぬ無償の愛であり、もっとも尊ばれる愛の形とされる。 ようするに、美琴を取り囲む少女達にとって教師に叱られながらも互いをかばう美琴と上条の恋愛が『崇高(プラトニック)』なものと映り、そこがどうやら箱入りお嬢様のツボに入ったらしい。 「いや私達は別にエロスとかアガペーとかそう言った高尚なもんじゃなくて……」 包囲の輪を狭め詰め寄る少女達に両手をわたわたと振って否定する美琴。 「さすがは御坂様。恋愛一つを取っても私達の良きお手本ですわ!!」 おかしな方向に気炎を上げたお嬢様軍団は美琴の言葉に耳を貸さず闇雲に美琴を褒め称える。 暴走した少女達をを止める術などもはや存在しない。 心の中で『処置なし』のハンコを押すと、美琴は小さく口の中でため息をついてからつまんなさそうに、 「……くろこー?」 「はいはい、ごめんあそばせ。失礼いたしますの」 美琴の合図を待っていたらしい白井黒子が女の子達の間に割り込み、美琴の腕を掴んで空間移動(テレポート)を実行する。 美琴が輪の中心からブン!! という音と共に姿を消すと、 「……あ、あら? 御坂様はどちらに?」 「また白井さんですの? どうしてあの方はいつもいつも……」 「御坂様ったら謙遜されていらっしゃるのでしょう。その奥ゆかしさも素敵ですわ」 少女達は口々に感想や文句を述べて、三々五々に散っていく。 美琴は白井に腕を掴まれて、少女の集団からほんの少しだけ離れた場所へ空間移動した。 少女達も慎重に辺りを見回せば美琴がそれほど遠くに移動した訳ではないことに気づけたのだが、常盤台中学にただ一人しかいない空間移動能力者(テレポーター)の判断力を高く見積もりすぎていたのだった。 美琴は隣に立つ白井に向かって、 「いつもいつも悪いわね。でも、私が困ってるって分かってるならもう少し早くに助けてくれても良かったんじゃない?」 「あれもたまには良い薬になるんじゃないかと思いましたの」 白井は後ろ手に何かを持ったまましれっと嘯く。 言葉の意味が理解できない美琴は首を傾げて、 「薬? それってどういう意味よ?」 「お姉様はご自身が超能力者である事を意に介さず、いえ、軽んじられていらっしゃるのは以前からですけれども、今回のはいささか度が過ぎていらっしゃいません? るいじ……もとい、公衆の面前で殿方に抱きついたままテレビ中継など破廉恥極まりないですわよ? 他の生徒ならいざ知らず、お姉様があのようなことをされたら先生方だってさすがに黙っていませんし、お姉様のファンを自称する生徒達があっという間に感化されることは火を見るより明らかですの」 そこで白井は一度言葉を切って涼しい顔で、 「と、わたくしがお姉様に一言申し上げる前にすでに囲まれていらっしゃいましたし、自身の行いがどれほど周囲に影響を及ぼすかは身をもって実感されたことでしょうから、これ以上についてはわたくしも口を噤みますの」 「はいはーい、毎度毎度のお説教ありがとうございます。ご心配をおかけしましたわねー」 美琴は再びげっそりした表情を作る。 さっきは先生で今度は白井か。 常盤台の模範生と呼ばれる少女は一日に二度もガミガミ言われて少々辟易していた。 超能力者の称号は美琴が目指したハードルの先でも、そのおまけでついてきた賛辞など美琴の知るところではない。 自分はただの女の子だ。恋だってするし、彼氏と一緒にはしゃぎたい。 美琴はそこで『うーん』と両手を挙げて大きく伸びをする。 ここでぶつぶつ言っても仕方がない。 美琴は気持ちを切り替えるべく自分の顔を両手でペチペチ、と軽くはたく。 白井は表情を和らげた美琴に向かって、 「お姉様。そろそろお召し替えをお願いいたしますの」 「ああ、もうそんな時間なのね。にしてもさ、これって本当に常盤台(うち)の伝統なの?」 「さぁ? わたくしは存じませんけれども」 手にした学ランを美琴にうやうやしく差し出す。 超能力開発の名門・常盤台中学では生徒の間で奇妙な伝統が存在する、らしい。 誰が言いだしたものなのかは全く見当がつかないが、曰く、 『大覇星祭では「彼氏持ち」の三年生が監督を務めるものとする』 とされている。 監督、と言ってもメガホン片手に常盤台中学が参加する全競技に張り付くわけではない。 監督が必要とされる競技にのみ、選手ではない立場で参加するだけの事だ。 「おそらくは『女子校育ちなのに彼氏がいるだなんて許せない』と僻んだどこかの誰かが始めた風習ではないかと思いますの。大方『彼氏から学ラン借りてこい』などと挑発して晒し者にするつもりだったのでしょう」 「その発想はさすがに考え過ぎってもんじゃない?」 白井の推測にいちおうツッコむ美琴。 白井は空間移動で美琴の背後に回り込むと美琴の肩に学ランをかけながら、 「お姉様もお姉様ですの。わかぞ……もとい、衣替え前の殿方さんに頼まなくても、黒子に一言言ってくださればお姉様を美しく彩る衣装をご用意しましたのに」 「試しにアンタに頼んだら、紫の生地にラメ入りでしかも背中に『愛裸舞優』とか変な刺繍が入った長ラン持ってきたじゃない。それに、アンタの学ラン受け取ったらアンタが私の彼氏って事になるじゃないのよ」 「ぐへへへ、それはそれで好都合ですの」 「……、」 美琴は妄想を滾らせる白井を無視して羽織った学ランに袖を通す。 借りてきた学ランを着てみて改めて美琴は思う。 上条は極端にがっちりとした体型ではないが、やっぱり男だ。 美琴より肩幅が広く、リーチも長い。 美琴は袖をまくって丈を調節しながら、 「うわー、分かっていたけどぶかぶかだわこれ」 背後では白井が白いたすきを美琴の肩から背中に向かって通し、交差させてちょうちょ結びに整え、 次に美琴の腰に軽く手を添えて、細かいプリーツの入った白いスコートを瞬時に履かせ、 そこから白井が前に回って美琴の胸元を軽く上から下になぞると学ランのボタンが次々と留められて、 最後に美琴の両手を取って、瞬きする間に白い手袋をはめさせる。 「お姉様、準備整いましたの」 「ん。ありがと黒子」 美琴はその場でくるりと一回転して全体を確認する。 スコートのプリーツが美琴の動きに追随して軽く舞い上がり、ふわりと落ちた。 まぁこんなものかな、と納得して、 「でさ、悪いんだけどちょっと連れてって欲しいとこがあんのよ。空間移動頼むわね」 「……嫌な予感が。いえ、むしろ嫌な予感しかしないのですけれども念のためにお聞きしますの。……どちらまで?」 「確か、うちらの競技が始まる少し前に二人三脚をやるでしょ? そこの競技場に行って欲しいの」 白井は軽くため息をついてからジャージのポケットから自分の携帯電話を取りだす。 細いスリットから飛び出した『本体』の液晶画面に競技案内のパンフレットを表示させて競技場の場所を確認し、 「……確かそれは『高校二年生』が出場する『二人三脚』であって、わたくし達常盤台中学は誰一人出場しませんけれども?」 一応の嫌味を言ってみるが美琴はそれを聞き流し、 「だから『悪いわね』って言ってるでしょ?」 「……短い時間ではありますけれどもお姉様とデートができると思うことにしておきますの」 白井は不平たらたらの表情で携帯電話をポケットに押し込み、美琴の手を握って空間移動で人混みをすり抜けてゆく。 とある高校の二年生が出場する、二人三脚の会場へ向かって。 一方その頃、とある競技場にて。 もうすぐ『二人三脚』が始まるとあって、出場する生徒達は肩を組んで走り出す練習や足を出すタイミングを話し合ったりしている。 出番待ちの生徒達に囲まれて、上条はしゃがみ込むと二つの足首を縛り付ける紐を調節しながら、 「あのさ。何で俺と吹寄が組むことになってんの? 確か俺は土御門と組むはずじゃなかったっけ」 隣で両腕を組んだまま仏頂面の吹寄制理に向かって話しかける。 吹寄は足元の上条をジロリと睨み付け、 「仕方ないでしょう。土御門がいきなり捻挫したんだから」 「だったら俺は出場しなくても良かったのでは? 吹寄だって運営委員で忙しいのに何も嫌々俺と組まなくたって」 「あたしは楽しい大覇星祭を成功させたいだけよ。それに上条、貴様は自分が去年の大覇星祭における白組のA級戦犯だと言うことを忘れたの? 貴様が去年の分まで白組に貢献できるようこうして時間を割いてペアに名乗り出てあげたんだから、むしろあたしの優しさに感謝して欲しいわね」 「そんな優しさいらねーって……」 去年はとある事件の結果初日からボロボロになるわ不幸の連発で心身共にズタズタになるわで、両親が見に来ているにも関わらず上条には全く良いところがなかった。 それら一連の出来事は全て上条の予定を無視して始まったことであり、そこでA級戦犯と呼ばれることは甚だ心外なのだが、 「土御門は今日一日使い物にならないから、土御門が出るはずだった種目は全部貴様の名前で再エントリーしておいたわ。せいぜい頑張ることね」 想定外の宣告にうげっ!! と驚愕の呟きを漏らす上条。 もはや立ち上がる気になれず膝を抱えて、 「……不幸だ」 「何をもたもたしているの? そろそろ待機列に並ぶわよ」 「ちょ、ちょっと待て吹寄。二人三脚ってのは二人の息を合わせて同時に歩くから二人三脚なんであって痛い痛い痛いまだ立ち上がってない俺を引きずるなって!!」 吹寄は上条を顧みることなく、自らの左足に上条をくくりつけたままずんずんと歩きだす。 美琴は白井と共にとある競技場に到着した。 目的はもちろん、二人三脚に出場する前の上条を一目見て、できれば激励するためだ。 白井は能力者達の二人三脚を見物しようと詰めかけた大勢の観光客達に混じって、 「『恋は盲目』と申しますけれども……」 人混みと美琴の態度、両方に対してうんざりめいた呟きを漏らす。 学生用応援席に向かうにはこの人混みを抜けなければならないので少々やっかいだ。 美琴は白井の嘆きも意に介さず、 「良いでしょ別に。あ、いたいた! ……って、何よあれ」 美琴の視線のはるか先で、上条は髪の長い巨乳の女生徒と肩を組んで出番を待っていた。 「アイツ……二人三脚の相手は男だって言ってたくせに……」 「あらあらまぁまぁ、わたくしのような恋愛初心者の目から見てもあの二人なかなかお似合いですわね。お姉様には劣りますけれどもスタイルもなかなか……って、ひぃ!? お、お姉様、群衆の只中でバッチンバッチン言わせないで欲しいですの! 漏れてます、電撃が漏れてますわよ!! どうか周囲の皆様避難を、避難を!!」 「ううう……あの馬鹿、私というものがありながら……またしても巨乳……」 「おおお、お姉様しっかりしてくださいまし!! よ、良く見れば女の方は大したことないですし嫌々組んでいるようですから大方パートナーの方にアクシデントでもあったのでしょう。ですからどうかお姉様、気をお鎮めになってくださいまし!!」 「うううう……」 美琴はガルルルと凶暴な唸りを上げんばかりに上条をひたと見据え、微動だにしない。 その時、上条は首筋に冷ややかな視線を感じた。 何だかチリチリと焼け付くような痛みさえ覚える。 上条は右手で首をさすりながらキョロキョロと辺りを見回し、 「……ん? 何だ? 誰かが俺を睨んでるような……げえっ!? み、御坂?」 突き刺さるような視線の持ち主は美琴だった。 遠くにいてもはっきりと分かる、鬼気迫る形相。 しかも全身に青い火花をまとわりつかせている。 美琴の周囲の人々が美琴を遠巻きにしているのも見て取れる。 上条は嫌な脂汗をダラダラと背中にかきながら、 「な、何で? 何でアイツはあんなに怒ってんの???」 「ほら上条、列が動くわよ。貴様もとっとと歩きなさい」 吹寄は自分の左足で上条の右足を引きずり、上条の左肩に自分の左手を回す。 その瞬間。 ギィン!! と音が聞こえるくらい美琴の表情が険しくなる。 上条は血相を変えて、 「ぎぇ!! ま、まさかアイツ、二人三脚で俺が吹寄と組んだのが気に食わないのか?」 「さっきからゴチャゴチャうるさいわね。さっさと歩きなさい!!」 「ま、待って吹寄! お、俺は今二人三脚どころじゃなく命の危機が痛い痛い痛い二人三脚なんだから歩く足を合わせる努力を、努力を!!」 上条が何故慌てたり顔色を青くするのか理解できない吹寄は、屠殺場へ家畜を連れ出すように上条の肩に手を回し、 それに比例して美琴の体を包む火花が放電レベルへと変わっていく。 上条は吹寄の動作に合わせつつ後ろを振り返って、 「こ、これは浮気じゃない! 誤解だ!! 浮気じゃないからそんなバチバチ言わせるなお願い頼む怒らないでああもう不幸だ――――――――――――ッ!!」 上条の叫びは群衆のざわめきにかき消されて美琴の元には届かない。 御坂美琴は綱引きが行われるとある大学のグラウンドに移動した。 というより、感電を覚悟の上で白井が空間移動でここまで引っ張ってきたのだった。 「お、お姉様……殿方のことは脇に置いて気持ちを切り替えてくださいまし……わたくし達の綱引きも始まることですから」 美琴の足元でうずくまる白井の体操服はところどころがうっすらと焦げている。 「わ、わかってるわよ。こっちはこっちの競技に集中しないとね」 美琴は両腕を組んで肩を聳やかす。 そう言ってみたものの、上条が髪の長い(しかも巨乳の)女生徒と肩を組んで鼻の下を伸ばしていた(ように見える)のだから、美琴の心は落ち着かない。 (あの馬鹿、こっちの競技が終わったら絶対とっちめてやるんだから。さっきの件で謝るのもナシ!!) 鼻息も荒く、頭に巻いたハチマキを締め直す。 細い指先が刺繍の部分に触れて、 (私の名前が入ったハチマキ締めてんのに、何で他の女といちゃつけんのよ……) 唇を噛みもう一度ぎゅっ、とハチマキを固く締め、正面を見据える。 その視界の隅を見覚えのある人影が横切って行く。 (あれ? 土御門さん……と、もう一人は……) 海原光貴だった。 体操服の上から背中に『大覇星祭運営委員』のロゴが入った薄いパーカーを羽織っている。 海原は常盤台中学理事長の孫で、念動力(テレキネシス)の大能力者(レベル4)でもある。美琴はとある事情により海原が少々(というよりかなり)苦手なのだが、 (……めずらしい組み合わせよね。つか、あの二人に接点あったっけ?) 美琴は海原と何回か喋ったこともあるので、どこの学校に通っているかくらいは知っている。しかしその学校名は、上条や土御門と同じとある高校ではない。 土御門の妹、舞夏から聞いた話によると土御門は無能力者であり、そして上条の高校に大能力者はいない。 ほんの少し考え込んだくらいでは少年達の接点が思いつかない。 能力(レベル)の違う二人は親友、と言うよりも今から大仕事を控えた男の表情で何事か会話を交わし、肩を並べて人混みの中に消えてゆく。 (……ま、いっか。こっちもこれから大勝負だし) 美琴は遠くなる二人の後ろ姿を見送って、 「ほら黒子。いつまでそうしてるつもり? そろそろ行かないとホントに―――」 「げっへっへっへっ、ローアングルから見上げるお姉様の脚線美に黒子は夢中ですの。引き締まった足首、無駄な肉のついていないふくらはぎ、かわいらしい膝頭、そして白くとろけそうなほどに柔らかい太股。いっそこのまま頬擦りしてしまいたいくらい……。ああもう黒子のこの身は愛に焦がれ、そして心は千々に乱れてぇ―――ッ!」 「乱れてんのはアンタのトチ狂った脳波でしょ!!」 足元でトリップを始めた白井の脳天に力一杯グーをお見舞いする。 上条当麻は人混みをかき分けていた。 二人三脚が終わってからすぐ美琴の元に行こうと思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかったのだ。 あの後何故か吹寄に用具の片付けを手伝うよう命令され、その次は転んでいる老婆を助けた。競技場へ向かう途中小さな女の子が泣いているのを見かけたので木の枝に引っかかっている風船を取りに行った。それを見ていたボーイズラブをたしなむらしいお兄さん方にナンパ(?)されたのだが、そちらは全力でお断りしておいた。 上条は近くの電光掲示板に表示された時間を見ながら、 「……この時間だとそろそろ三回戦に入ってる頃かな。綱引きって言っても常盤台中学は五本指の一角とか呼ばれてるらしいし、一回戦負けはさすがにありえねーだろ」 とあるグラウンドの入場門をくぐり、キョロキョロと辺りを見回す。 グラウンドでは無駄に広い面積を使い切ってコートが二〇面作られ、綱引きが行われている。 綱引きの正式なルールによると、一チームは八名構成でチームの総重量によって階級も決められるのだが、能力者達の運動会ではそんな階級制など用意されていない。 だが全くの無差別では能力差で勝敗が簡単に決してしまう。 ということで、学園都市の大覇星祭においては『一チーム最大二〇人構成』『センターラインを超えた一切の能力干渉を禁ずる』と言う特別ルールが用意されている。 つまり握ったロープ越しに相手をビリビリさせる、あるいは空間移動でロープを味方陣地に引き込んでしまうのは反則なのだ。 「しかし、アイツが出ないのに競技の応援って何すりゃいいんだ? 『頑張れ頑張れ常盤台』とか叫ぶのか? ……うわっ、想像しただけでも寒いぞ」 上条はほんの少しだけ身震いする。 「ともかく、常盤台中学がどこで対戦してるのか探しに行かねーとな。……あれ?」 少し離れた人混みの中で懐かしい人物を見つけた。 海原光貴。 美琴のことを臆面もなく『好き』と言ってのけたさわやか少年だった。 彼は馬鹿デカいレンズを取り付けた高価なデジタル一眼レフカメラを三脚に取り付け、競技場の方に向けている。 腕に『記録係』という腕章が巻かれているのが見えるので、卒業アルバムに載せるための写真を撮っているのかも知れない。 (でも待てよ。確か海原は二人いるんだったよな。アイツはどっちだ?) 美琴の事を『好き』と言った海原は『ニセモノ』の方で、本物は念動力の大能力者だ。 だが偽海原は少なくとも外見は本物海原にそっくりなので、アステカ魔術を使う少年が尻尾を掴ませない限り上条には見分けがつかないのだ。 (うーん……どっちでも良いか) などと上条が考えていると、人混みをかき分けて褐色の肌の少女が海原に近づき、背後から海原の耳を思い切り引っ張った。 洒落にならない痛みで耳を押さえ悲鳴を上げている海原と怒り顔で今度は頬をつねり上げる少女の雰囲気から、彼女と海原がごく親しい間柄というのは離れた位置でも見て取れる。 少女がいつか見たことのある偽海原と同じ肌の色を隠そうともしないところから、おそらく少女は偽海原の知り合いで、つまり殴られた方は偽海原らしい。 (アイツ、御坂の事が好きとか言っておいてちゃっかり可愛い女の子をキープしてんのかよ。……うらやましいぞ) 上条が見当違いの感想を胸の中で綴っていると、コートに少女達の一群が現れた。 襟刳りと胸元のV字、そして袖口が臙脂に彩られた競技用ユニフォームに身を包んだ『五本指の一角』常盤台中学の生徒達だった。 少女達を率いるのは、白いハチマキをきりりと巻いて、サイズの合わない学ランに白たすきを掛け、ひらひらな白いスコート姿に白手袋で固めた、一言でまとめると『旧世紀の応援団コスチュームを纏った』御坂美琴だ。 『外』とは科学技術で二、三〇年は先を行くと言われる学園都市で『中』にいる学生が前時代的な服装をしているという事は、いわゆる対抗文化(カウンターカルチャー)の模索であり発露であり、見方を変えて露骨な表現をすれば一種の晒し者(きゃくよせぱんだ)である。 だがそんな事には関係なく、観客達は可愛い女の子がコスプレして出てきたという事実にのみ盛り上がり、もはや勝敗の行方など誰一人気に掛けていないように見える。 美琴の登場で口々に騒ぎ立て手元の携帯電話のカメラを使って美琴を撮影する学生達に混じって、 「うわぁ……。俺の学ラン貸せって言うから何すんのかと思ったらこういう事だったのか」 美琴(アイツ)なら何を着ても似合うけどそれって若干時代錯誤気味じゃねえか? と上条は正直かつ場違いな感想を胸の奥にしまい込む。 そこで目の前の人混みが動き、中から頭に花飾りを乗せた小柄な女の子がはじき出された。 (まずい、このままだと転ぶぞ!!) 上条は咄嗟に両掌を前に突き出し、仰向けにひっくり返りそうになった女の子を支える。 初春飾利は今にも溺死しそうな思いで人混みをかき分けていた。 とあるグラウンドに用意された学生用応援席は何故か大賑わいで、試合が始まるのを今か今かと待ち構える人々でごった返していたからだ。 周りの人々の雰囲気で、試合がまだ始まってないというのは分かる。 しかし、悲しい事に初春の身長は一六〇センチに届かず、この押し合いへし合いの中では前の様子が全くもって見えない。体力もないので押しても押しても後ろへ押し返されてしまう。 右を見ても左を見ても人、人、人で埋め尽くされて、グラウンドの土さえ視界に入らない。 この時の初春は知らなかった。 たかが綱引きでこれだけ混雑する理由が御坂美琴のコスプレ紛いの衣装にあることを。 初春は友人である白井と、そして美琴の応援のため風紀委員の仕事を抜け出してここへやってきたのだが、 「こ……困りました……まさかこんなに混んでるなんて大誤算ですよ……。御坂さんに、白井さん……はあぁ……み……見えませぇん……」 後ろの方に向かってどんどん人波に押し流される。 人の流れに抵抗して前に進もうと努力するが、人数差はどうにもならない。 相撲の突っ張りを食らったみたいに体が仰向けに傾き、転びそうになったところで、 「よっ……と」 とん、と。誰かに押しとどめられた。 「大丈夫?」 「は、はい……すみま……えええええええ!?」 初春の両肩を掴んで支えてくれたのは、どこかで見た事のあるツンツン頭の少年だった。 少年は初春の悲鳴がかった奇声に慌てて、 「ちょ、ちょっとストップ! 叫ぶのストップ!! 俺は痴漢じゃねーから!! お願いだから風紀委員呼ばないで!!」 「あ、あわわわ、すみませんっ! そんなつもりじゃないんです!!」 風紀委員の仕事サボり真っ最中の初春は押しくらまんじゅう状態の真っ直中で頭をペコペコ下げる。 頭を上げて相手の顔を改めて確認すると、 (ど、どうしよう! この人、御坂さんのでこちゅー彼氏さんじゃないですか!!) 「? あの。俺の顔に何かついてます?」 「いいいいいいいえ! 目と鼻と口くらいしかついてません!!」 咄嗟に意味がよく分からない切り返しをしてしまう初春。 少年はポリポリと頭をかいて、 「君も綱引き見に来たの?」 「えーと、友達が出場してるんでその応援に」 「そっか。でもこれじゃ全然見えねーよな」 人でぎっしり埋まった学生用応援席を見回す。 「よし。前の方まで行くから俺についてきて」 ツンツン頭の少年は初春の手を掴み、 「はいごめんなさいよ、ちょっくらごめんなさいよ」 とか何とか言いながら人混みを無理矢理かき分け始めた。 初春は想定外の事態にやや呆然としながら、少年に手を引かれ先ほどよりはスムーズに前の方に向かって進んで行く。 (……彼氏さん、私達とプールで出会った事は覚えていないみたいですね) 初春からすれば少年は監視カメラに映っていたり美琴へのでこちゅー現場を生で見てしまったりの『知っている』状態だが、少年からすると『この子どこかで会ったっけ?』くらいの認識しかない。 初春はツンツン頭に巻かれた白いハチマキを何となしに見ながら、 (私が御坂さんの友達って言うのは知られない方が良いかも知れませんね……ぶほわっ!) 「ん? どうかしたのか?」 うっかり吹き出してしまった初春をツンツン頭の少年が振り返る。 「い、いえっ! 何でもありません!」 初春は空いてる手をわたわたと振って否定する。 初春飾利は見てしまった。 白い糸で施されているので良く見なければ気がつかないが、少年の頭に巻かれたハチマキには針裁きも鮮やかに『御坂美琴』と刺繍されている。 (こ、これって絶対御坂さんが刺繍して渡した奴ですよね! ぷぷぷ、御坂さんがこんなに独占欲の強い人だなんて初めて知りました!! こ、これは写真メール撮って佐天さんにも見せてあげないと!!) 初春はジャージのポケットから二つ折りの赤い携帯電話を取り出し、カメラモードに切り替える。 ハチマキの裾はゆらゆら揺れて焦点(フォーカス)がなかなか合わないが、ツンツン頭の少年が立ち止まった一瞬に初春はぐっとボタンを押し込んだ。 盗撮防止のシャッター音がやけに大きく感じられたが、少年は気づくことなく初春の手を掴んだまま前へ前へと進んでゆく。 初春は携帯の液晶画面をメール作成に切り替え、ポチポチと文字を打つと今撮ったばかりの証拠写真を添付し、友人である佐天涙子に送信した。 (こ、これは面白いものが撮れてしまいました!! あとで佐天さんと合流して、御坂さんを呼び出す算段を整えなくては!!) 初春の頭上で花飾りが揺れる。 溢れかえるほどの人混みの中で、花だけが初春の企みを見抜くようにゆらゆらと揺れる。 常盤台中学と対戦するのはどこかの高校らしく、美琴達より二回り以上の体格差を誇る男子生徒の集団だった。 不敵な笑みを浮かべる少年達に少女達は余裕の表情で対峙する。 学生達が持つ能力にも相性の善し悪しというものがある。そこをついてしまえば五本指の一角だろうが二本目だろうが恐れる必要はない。 おそらく少年達は相手校の能力者を統計立てて計算し、最適の反撃(カウンター)を放って勝ち上がったのだろう。 超能力開発の名門・常盤台中学と言えど所詮中身はただの女子中学生だ。 おそらく彼らはそう値踏みしているが、才媛軍団常盤台中学は『エース』と呼ばれる美琴をあえて監督に据えている。 つまり、美琴がいなくても勝てる布陣を敷いたと暗にアピールしているのだ。 本当は美琴の能力がこの競技に限りあまり役に立たないからなのだが、何故か相手が勝手に誤解して、前二つの試合は不戦勝となった。 美琴は少女達を集めて円陣を組むと、 「一回戦、二回戦は相手が棄権したからここが事実上の『お披露目』ってことになるけど、気を抜かずに全員の呼吸を合わせて決めるわよ。いい?」 「おーっほっほっほ。御坂さん、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。この婚后光子が一瞬で片をつけて差し上げましてよ」 「相変わらず空気を読まない方ですの……」 婚后の隣で肩を組んだ白井が眉をひそめる。 美琴はあはは、と苦笑いして、 「こ、婚后さんは私達の秘密兵器だから今回は温存ね」 作戦を確認すると少女達は一〇人二列に分かれ、自分の持ち場につく。 美琴は並んだ少女達からやや離れた場所に位置取り、右手を空に向かって伸ばす。対戦校の監督も自軍の近くに陣取って開始の合図を待つ。 白いラインを挟んで左右に散った少女達と少年達が向かい合い、一本のロープに手を掛けた。 その瞬間競技場がしん、と静まりかえる。 『Pick up the Rope』の合図で互いにロープを強く握りしめ、 『Take the Strain』の掛け声で全員が綱引きの体勢に入り、 『Steady』の声で静止し、 『Pull』の合図と同時に美琴が右手を振り下ろすと、 常盤台中学側の陣地がボゴン!! と何かを踏みつぶしたような音を立てて一〇センチほど陥没した。 砂煙がもうもうと舞い上がる中で、相手より『低い』位置に陣取った少女達は苦もなくロープを引っ張り、体格も体重もはるかに上の少年達は悲鳴を上げながら引かれるまま全員前方につんのめって倒れる。 大能力者でも集中力を乱されたら即座に対応できない。まさしく電撃作戦(ブリッツクリーク)だ。 判定係は二〇人の少年達が全員無残に地面に突っ伏したのを見届けて、 「勝者、常盤台中学!!」 判定の声に少女達は飛び上がって喜ぶわけでもなく、転んだ少年達に手を差し伸べて立たせ、淡々と能力で地面を元に戻す。 一撃必殺(ワンターン・キル)。 相手の出方も、能力の相性も一切関係なく、 それでいて能力を相手に直接使うことなく、 物理法則を逆手に取って常盤台中学は勝利した。 「身体能力強化を使うんじゃなく、重力操作系か念動力で足元えぐり取って人為的に高低差を作り出し、文字通り相手を『引きずり下ろした』のか。にしても複数の能力者がピタリと息を合わせて発動させるなんてさすが常盤台だな」 上条が感心していると、コートの中でキョロキョロと辺りを見回していた美琴と目が合う。観客達の中にいるであろう上条の姿を探していたらしい。 上条がおーい、と呼びかけながら手を振ると美琴の表情がぱっと明るくなり、それから何を思い出したのか不機嫌そうに目を細め、ぷいと横を向いた。 上条は振っていた手を引っ込めて、 「うげ……アイツまだ怒ってんのかよ」 何も悪い事はしていないのに、何でこうなるんだろう。 熱狂する観光客と応援の人々に混じってただ一人、 きっとこれから、 何も悪い事はしていないのに土下座しなくちゃいけないんだろうなぁ、と上条はぼんやり思うのだった。 綱引きの第四回戦以降は二日目に行われる。 と言う訳で、上条は手空きになった美琴をとある校庭の隅へ連れてきた。 人気のあまりない校庭にはフェンスに沿うように常緑樹が一定の間隔を開けて植えられている。 無造作に伸びた木の枝は盗撮対策の目隠し代わりだ。 そんな名目で手入れされたとある木の根元で上条は土下座の準備をしながら、 「……あの。これって冤罪だと思うんだけど」 「そうね。冤罪かも知れないけど、『彼女』の目の前でアンタが他の女の子にうつつを抜かしてたのは揺るがない事実でしょ」 学ランを着た美琴は腕組みをしたまま足元の上条を冷たく見つめる。 二人の姿はまるでどこかの女番長が気弱な男子高校生を揺すっている構図に見えなくもない。 上条は傲然と顔を上げて、 「どこをどう見ればそうなるんだよ!! 俺は二人三脚の準備をしてただけだろ!!」 「じゃあ何で二人三脚の相手が男だなんて嘘つく訳?」 「嘘なんかついてねーよ! 土御門が足を捻挫して今日一日動けないからって、運営委員やっててたまたま競技の割り当てがなかった吹寄がヘルプで入っただけだ!!」 「何言ってんのよ」 はぁ、と美琴はため息をつき、 「土御門さんなら元気よ? 綱引きの前に見かけたけど」 「はぁ?」 今度は上条が素っ頓狂な声を上げる番だった。 どういう事だ? 怪我したはずの土御門がピンピンして歩き回ってる? つまり土御門は嘘をついてでも自由を確保しなければならないという事だったのか? 土御門は自分自身を『嘘つき村の村民』と称して憚らない男だ。 だがその嘘はいつだって『使う必要があるから』ついている。 上条は地面に向かって顔を伏せたまま、 「考えろ。考えろ上条当麻。土御門が嘘をつくのはどんな時だ? 去年の大覇星祭で何があった? 今年はあんな事が起きないだなんて誰も保証してくれねえんだぞ?」 「こら、何をぶつぶつ言ってんの?」 美琴は去年、大覇星祭の裏で起きたとある事件の顛末を知らない。 だけど上条は知っている。 土御門がどんな気持ちで世界の裏を駆け抜け、小さな思いが積み重なって築かれた社会同士の摩擦を防ぐために日夜暗躍している事を知っている。 (きっと土御門は何かを抱えている。それなのに俺はこんなところでこんな事をしていて良いのか? 俺にだって何かできる事があるんじゃねえのか?) 「何を一人で考えこんでんのよ」 頭をコン、と小突かれた。 顔を上げると、その場にしゃがみ込んだ美琴が上条の顔をのぞき込んでいる。 美琴はやれやれ、と言いたげな表情を隠しもせずに、 「さっきから人がさんざんお説教してるって言うのに、アンタと来たら右から左に聞き流して、あまつさえ難しい顔して別の事考えてんだもの。怒鳴るだけ馬鹿みたいじゃない。ほら立って」 美琴は上条の手を引っ張って立たせると、 「その様子じゃあの巨乳女の事もきれいさっぱり頭の中から消えてるみたいだし、二人三脚の事はもう良いわ」 「え? 巨乳が何だって?」 「なっ、何でもないわよ!! つかそんなとこだけ反応すんなっ!! ……それより、さっき何を考えてたの?」 上条の前に立ち、小首を傾げてみせる。 ぐい、と顔を近づけて声をひそめ、 「……もしかして、何かまずい事態でも起きてるとか?」 「いや……そうじゃねえ」 上条は首を横に振る。 懸念を美琴の前で隠し通すのは得策ではない。 むしろ話しておけば少なくとも美琴は納得するし、そこから先は自分の意志で考えるだろう。 「単なる俺の思い過ごしかもしんねーし、本当に何かが起きてるなら否応なしに巻き込まれてると思うんだ」 俺って不幸体質だし、と上条が付け加えた言葉に重なってプツン、と言う奇妙な音が響き、続けてパサリ、と何かが滑り落ちる音がした。 どうも腰の辺りがスースーするような気がして上条は音のする方向、つまり自分の足元を見て、 美琴が上条の動きにつられて下を向く。 上条の足首付近に青色の短パンが引っかかっている。 「……ん? これ誰の……?」 「……、」 上条の足元に落ちた短パンから視線をやや上にずらした美琴の動きがビキン!! と凍り付く。 ガバッ、と自分の顔を両手で覆う美琴の視線の先を目で追った上条は、 「……げっ!? これ俺の……って事は御坂! 馬鹿こっち見んな!!」 咄嗟に両手を使って下着を美琴の視界から覆い隠す。 そこへ、 「今わたくしのお姉様レーダーは感度最大! 地球の裏側でもお姉様を捜し出せますの!! 感じる、感じますわ!! こちらにお姉様がいらっしゃるのですわね!! 待っててくださいお姉様今すぐ黒子がお迎えに―――ッ?」 空間移動を駆使して美琴を探していた白井が下着丸出しの少年と何とも説明しにくいポーズで固まっている少女を見つけ、 その場に着地すると羽織っていた常盤台中学指定ジャージから空間移動で金属矢を取り出し、 「風紀委員(ジャッジメント)ですの! そこの類人猿、婦女暴行並びに猥褻物陳列罪その他諸々の罪で即刻死刑ですの!! 粗末な物体ごとその体をぶつ切りにして差し上げますからそこから一歩も動くなァああああああああっ!!」 「ちょっと待て白井! お前風紀委員だろうが!! いきなり俺を殺しにかかるんじゃねえ!! そもそも粗末な物体って何の事だ!!」 理不尽な要求に向かって叫ぶ事で抵抗する上条。 しかし足元には脱げた短パン、両手は下着を隠しているのでカッコつかない事この上ない。 「問答無用ですの! お姉様の貞操を奪った罪は万死を持ってしても償いきれませんの!!」 「ちょ、黒子!! いくら人通りがないからって貞操とか大きな声で言うな!!」 美琴は顔を真っ赤にして怒鳴り返すが彼女も彼女で両手で顔を覆いながら指の隙間からチラチラ見ているので説得力は皆無である。 次の瞬間、白井黒子と言う少女を構成する顔のパーツが劇画っぽい表情に変わる。 「はっ!? まさかこの状況はお姉様自ら招いた事だとおっしゃいますの? ……よもやお姉様が殿方と屋外で致してしまうほど飢えていらっしゃっただなんて!! 一言黒子に相談してくださればお姉様の欲求不満などこのゴッドハンドでペギュ」 「それ以上喋るんじゃないわよ!!」 美琴が白井の脳天に向かって垂直にずびし、とチョップを浴びせる。 上条は両手で脱げた短パンを腰まで引き上げながらがっくりと肩を落とし、 「……不幸だ。夕べ洗濯した時にゴム紐が切れかけてたのかな」 シリアスな雰囲気が台無しである。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox